トルコ11月の再総選挙とエルドアン大統領

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2015年09月15日

トルコでは11月に再度、総選挙が実施されることが決定した。

6月7日に実施された総選挙では、与党・公正発展党(AKP)が2002年の政権獲得以来、初めて過半数(276議席)を割り込んだ。その後、AKPと野党による連立交渉が行われたが合意には至らず、11月1日に再総選挙が実施されることが決定した。現地世論調査等によると、6月選挙での得票率と現在の各党の支持率に大きな変化はなく、現状のままでは各党の議席配分は前回と同様になるでは、と予想されている。

エルドアン大統領は、6月の選挙前には国内を精力的に回り、事実上自らの出身母体であるAKPの選挙運動を行った他、野党をはじめとする対立勢力を厳しく批判し間接的にAKPへの支持を訴えている。しかし現時点の支持率を見る限りあまり効果は出ておらず、高い人気を誇り主要選挙に勝ち続けてきたその神通力にも陰りが見られるようだ。それは、とりもなおさずエルドアン大統領本人の政治姿勢に対する批判の表れであるように見受けられる。

エルドアン大統領は2014年の大統領選挙に首相から転身して出馬し、当選した。トルコの大統領は儀礼的な存在とされているが、エルドアン大統領は憲法改正を通じた大統領権限の強化を目指しているとされており、平時にもかかわらず閣議を招集するなど政治的に中立な立場とは言えない言動も目立っている。今回の連立交渉が決裂した要因の一つとして、エルドアン大統領の政府への影響力や野党に対する態度に対し、野党からの反発が大きかったことが挙げられている。

現状のAKPの議席数では大統領が目指す憲法改正は難しい状況にある。11月の選挙結果でAKPが最低でも過半数を取れない場合、エルドアン大統領の求心力の低下はまぬがれないとの見方もされているが、それが今後の政局に対して良い結果をもたらすのか、更なる混乱の始まりとなるのかは不明である。

一方でエルドアン大統領はすでに自分は直接投票により選出された大統領として事実上実権型大統領の権限を有している、との発言もしており、憲法改正を目指しつつも具体的な権限強化に乗り出していくのでは、とも考えられている。こうした姿勢に対して世論の反発が一層高まることも想定され、結局はエルドアン大統領が強硬な姿勢をとればとるほど、AKPの支持率に影響し、結果的にエルドアン大統領が目指す大統領権限の強化が遠のく結果になるのかもしれない。

6月の選挙では、クルド系政党である人民民主党(HDP)が躍進し、80議席を獲得したことが話題となったが、HDPは全体としてはクルド系政党の域を出ず、他の野党もAKPの得票率には及ばなかった。AKPの得票率は前回より低下したとはいえ40.9%(258議席)を獲得したことを考えると、民意は「憲法改正による大統領権限の強化は支持しないが、AKPが中心となって政権を担当するべき」と考えていると言えるだろう。AKPが2002年以降に達成した経済成長や貧困対策に対して国民は一定の支持を与えていると考えられる。

しかし、近年はAKPの高い支持率の裏付けとなっていた経済は低迷しており、足元では長引く政治の空白による政策実施の遅れで、経済への悪影響は拡大している。さらに7月以降、クルド問題の深刻化により軍と武装組織の衝突が頻発し治安情勢は悪化しており、選挙の大きな争点となりそうだ。さらに対外的にはシリアやエジプトなど近隣国との関係も悪化しており、トルコが抱える課題は多い。

11月の選挙結果がどうあれ、新しく作られる政府はこうした諸問題に早急に取り組む必要があるが、どのような政府になるのかについてカギを握るのはやはりエルドアン大統領の態度次第ということになり、その言動が注目されることになるだろう。

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