停滞する世界貿易の背景

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2015年08月20日

  • 小林 卓典

日本の4-6月期のGDP成長率が、3四半期ぶりのマイナス成長に沈んだ一因は、輸出の減少にある。アベノミクスの誤算は円安でも輸出が伸び悩んでいることだが、輸出の停滞は必ずしも日本だけの問題ではない。

リーマン・ショック後、いったん世界貿易はV字型の回復を見せたが、2011年から現在にかけて大幅に減速した。世界輸出数量の伸びを試算すると、2002年~07年の年率7.7%に対して、2011年~15年は同2.7%にとどまっている。

その背景として、財政危機に揺れるユーロ圏の内需が低迷し、域内貿易が減少したことや、中国経済の減速とそれにともなう資源需要の減少など、需要サイドの要因が大きいと思われるが、それだけではない。

原因についての実証研究はいろいろとなされており、例えばグローバル・サプライチェーンの進展によって、最終需要の減少に対する中間財など貿易財の生産が速やかに調節されるようになったこと、あるいは部品など中間財の供給を輸入に頼っていた新興国、なかでも中国が中間財の自国生産比率を高め、輸入依存度を低下させたことなどの指摘がある。

また、世界輸入数量の所得弾性値が、リーマン・ショック以前と比べて低下しているという推計結果もある。そうなると、今後、主要国の最終需要が回復しても輸入は思いのほか伸びず、世界貿易は相変わらず勢いを欠いた状況が続くかもしれない。

世界経済の減速と世界貿易の構造的な変化は、景気回復の好循環をなかなか実現できない日本にとって、輸出の回復に厳しい制約を課している。

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