元気だから病院に行く高齢者たち

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2015年07月31日

  • 秋屋 知則

先日、ぎっくり腰になった。あまりの痛みに脂汗が出るほどだったので、はやっていると近所で評判の整形外科に出かけた。ここ数年、もっぱらオフィス中心の仕事をしているせいか腰痛が慢性化もしていた。レントゲンを撮って説明を聞くと院長曰く「立っているのを100としたら、座っているだけでも140、パソコンを打ったりする姿勢だと185。力仕事をしなくとも、会社に行けば、それだけで腰に負担がかかる。」と。

背骨の模型も見せられて不安になっていると「相当に悪い状況でなければ、最近、手術は減っている」とのことで、激痛が治まったら徐々にリハビリをしていくことになった。患者にとって怪我や病気は、なったことそのものも辛いが回復の目途が立たないことがより辛いと思う。痛み止めはもらえるけれど、痛みの元が無くなったわけではない。じっくり治そうと考えた。

いざ通い始めてみると、治療室や待合にあふれんばかりの患者で再診割合が高いためか、そのほとんどを占める高齢者の間に常連とも呼ぶべき顔見知りのコミュニティが存在しているように感じられた。風邪などを引いて“一見客”としてたまに訪れる病院では、あまりお目にかかれない光景だ。そこでリハビリの電気を当てる順番を待っている2人のおばあさんの話が聞こえてきた。

「最近、膝の具合はどう?」

「今のところ、痛みはなくて大丈夫。でも歩けなくなったら、(病院には)もう来ないつもり」

悪いところを治療するために病院に行くのではないのかと笑いをこらえつつ、日本の社会保障費における医療費は、なかなか減らないだろうとあらためて思った。

簡単で継続的な治療だと1回の自己負担は500円にも満たないが、残りは国・地方や健保・国保などが負担している。最近の医療費の推移を見ても国全体で約40兆円。抑制の努力はしているものの、過去最高を更新して伸び続けている。診療科別の内訳では、年によってばらつきはあるものの、整形外科や眼科に伸長が見られる。これも高齢化と無関係ではないだろう。実際の自分のリハビリでは、何度か、通ってみたがすぐに症状が改善せず、くじけそうになった。

院長に痛みが取れないことを相談してみると、治療効果が出る期間は人によって違う上、腰痛は原因がはっきりしないことも多く、ストレスも影響するのだという。どうやら直接、痛めた筋肉などからだけでなく、メンタル面も、一見すると無関係に見える痛みに少なからず影響を与えることがあるらしい。

若い頃、健康診断や人間ドックにおける検査項目の数値がいかに悪いとか、医者からどれだけ飲酒、喫煙などの生活習慣を改善するよう注意されたかとか、お互いの不健康さを自慢し合うような中高年にはなるまいと思っていた。しかし、自分の加齢とともに病気や怪我が増えてくるにつけ、同じ悩みを共有する同世代の人に愚痴を言ったりすることが、サイコセラピー的にストレス解消効果をもたらすとしたら、お友達に会うのを楽しみに元気にリハビリに通ってくる高齢者の言動を全面的には否定できないような気もしてきた。

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