コーポレートガバナンス強化と昨今の不祥事を考える

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2015年07月30日

  • 横溝 聰史

上場企業に対し、これまで内部統制やリスクマネジメントを含む広義の意味でのコーポレートガバナンスの強化が制度的になされてきた。

具体的には経営者の法的責任として、会社法(2006年5月施行)では業務の適正を確保するための体制整備を、金融商品取引法(2007年9月施行)の一部では日本版SOX法(内部統制報告制度)の制定により内部統制の整備を上場企業は実施することを求められてきた。

昨今では、社外取締役の登用に関して、いわゆるComply or Explain(遵守せよ、さもなければ説明せよ)という制度が会社法改正法に盛り込まれ、更に、金融庁・東京証券取引所が事務局として共同でコーポレートガバナンス・コード原案を公表し、企業価値の毀損を防ぐ守りの面から一歩踏み出し、企業価値を向上させる仕組みを求めている。

しかしながら、このようにコーポレートガバナンスの制度面の進展に対し、依然として上場企業の不祥事は減少してきているとは言えず、ここ最近でも企業の不祥事が度々起きている。

不祥事の内容とその影響を見ると、以下の大きな共通点が二つあることがわかる。

  1. 不祥事が本社ではなく子会社で起きている。
  2. 子会社の不祥事により、親会社の役員が責任を取っている。

①は、昨今の不祥事内容に非常に共通していることである。原因として考えられるのは、子会社は独立した別法人であるため、本社サイドが事業・業務面で干渉しくいことが考えられる。特に海外子会社のように地理的にも離れており、文化・言語も異なる海外子会社ではその傾向が強い。

また、子会社の事業が本社の主な事業と大きく異なる場合、本社サイドで事業・業務面で繋がりがなく、連携が取りにくいことも考えられる。

更に、本社と比較して子会社内の管理部門の人的リソースが十分でなく、内部統制やリスクマネジメントの対応が弱い可能性がある。

②は、昨今の不祥事の影響として共通している。子会社の不祥事により、親会社の役員が辞任、役員報酬削減等の責任を取っている。その原因としては、まさに最近のコーポレートガバナンス・コード公表に至る、広義のコーポレートガバナンス強化の中で、子会社に対するガバナンス・内部統制・リスクマネジメントは、親会社役員の義務であり、その体制・運用に問題があり不祥事が発生すると、親会社役員の監督機能が不全であったということが、制度強化の中で一般的に認知されてきたからだと言える。

従って、今後親会社の役員は、コーポレートガバナンス・コードで求められている「透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」を親子間で構築・運用することが望まれる。

具体的には、本社と子会社の役割・機能や権限を経営戦略に沿って定義した上で、親子間の指示・命令・報告系統を明確にし、情報共有・意思疎通を円滑にし、且つ子会社への明確な権限の分権化と本社による業務執行のモニタリングを行い、健全なグループ経営を行うことがその出発点であると考える。

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