リスク取る"官"、取らぬ"民"

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2015年07月24日

  • リサーチ本部 常務執行役員 リサーチ本部副本部長 保志 泰

公的年金が一段とリスクを取っている。2014度末のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオは、国内債券のウエイトが1年間で55.4%から39.4%へ16.0%ポイントもの低下を見せ、逆に国内株式が16.5%から22.0%に5.5%ポイント上昇、外国株式は15.6%から20.9%へと5.3%ポイント高まった。いわゆるアベノミクスの一環で、基本ポートフォリオが大きく変更されたことを反映したものであるが、内外株式の比率はさらに引き上げられる余地がある。

一方で、私的年金はといえば、相変わらずリスクテイクの姿勢は強まっていない。2014年度末について資金循環勘定から確認すると、年金基金全体で株式・出資金の比率は10.7%と1年間で1.7%ポイント高まったものの、主に株価の上昇によるもので、フローベースでは5年連続の売り越しである。

このような“官”と“民”のリスクテイク姿勢の違いは年金資金に限らない。“民”がリスクを取らないので、“官”がリスクを取り、呼び水とすべきだとの考え方が、ここ数年で定着した感がある。いわゆる「官民ファンド」も、その考えの下で続々と仕事を始めている。報道によれば、国際協力銀行(JBIC)に高リスクの海外インフラ案件の投融資を認めようという動きもあるとのことだ(※1)

思惑どおり、“官”の資金が呼び水となって、“民”のリスクテイクを引き出すことに成功するのか否か。期待は大きいものの、確信には至っていない。規制が強まる銀行は大きなリスクテイクが制限されているほか、企業部門の現預金比率は過去20年の最高水準に達している。また、家計の資産運用においては、少し投資信託を購入するようになったものの、株式は売り越しが続いており、大きなうねりは未だ確認できない。長年のデフレ時代の習性が染み付いた日本人はそう簡単に動かないのか。

より積極的に“民”を動かすには、二つのルートが考えられる。一つは、当たり前だが、リスクを取りやすい環境を作ることだ。家計資産運用でいえば、例えばNISAなどの税制優遇策が当てはまるだろうし、ハイリスクとローリスクの中間的な投資商品を増やすことも効果的と考えられる。

もう一つは、リスクを取らざるを得ない状況を作り出すことだ。例えば、インフレ率の向上を確実にし、保守的な資産運用が実質的な目減りにつながることを知らしめることがある。また、上場企業に対して求めている投資家との対話も、リスクテイクの動機になり得るだろう。

リスクテイクは“民”が行ってこそ、経済成長に結びつくものとなる。その意味で“官”は、いかにバトンタッチしていくかを真剣に考える必要がありそうだ。

(※1)日本経済新聞 2015年7月5日朝刊1面

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保志 泰
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