「稼ぐ力」と地方創生で期待される"ローカル・マネジメント法人"

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2015年06月17日

  • 経済調査部 市川 拓也

経済産業省「日本の『稼ぐ力』創出研究会」では、新しい法人制度として“ローカル・マネジメント法人(仮称)”の創設が検討されている。同研究会の5月20日会議のとりまとめ(案)によると、「株式会社については、通常は利益の最大化をその目的と考えられており、社会性又は公共性の高い事業を持続的に提供することを一般的に期待するのは困難」、「NPO法人・一般社団法人・一般財団法人については、現行制度では出資が不可能であることから事業を持続的なものにするために安定的な資金調達を行うことが困難」などの指摘を受け、「地域に必要なサービスを、十分なガバナンスの下で、総合的・効率的に提供するローカル・マネジメント法人(仮称)の在り方について、検討を深化させていく必要がある」としている。

これまでの同研究会の議論等を見る限り、同法人に求められているのは生活密着型のサービス分野である。具体的には、小売、鉄道、バス、保育園、宿泊、ガソリンスタンド、介護分野が想定されているようである。確かに、地方の広範な事業を行うには会費や寄附を主たる活動資金とする特定非営利活動法人(以下、NPO法人)(※1)は財務基盤的に脆弱であり、他方で、広く営利目的と認識されている株式会社が福祉等の分野をその主体として担うことは現状では一般に馴染まない側面もある。新たな法人類型の創設によって、一定規模の団体が地域になくてはならないサービスを、継続性をもって「総合的・効率的」に提供できるようになれば、地域住民の受益に資するというのは理解できる。

ただし、制度設計は容易ではないだろう。NPO法人と株式会社の両面を併せ持つことが求められるならば、NPO法人に列挙されている活動目的をより広範に許容しつつ、他方で利益処分や持分譲渡を一定程度自由にするしくみも考えられる。しかしこの場合、極めて高い使命感と倫理観を持ち合わせた者が常に出資者であり続けるとは限らないため、経営者に私的利益の追求が優先されることのないしくみを内在させる必要がある。

また、税制優遇を付与するならば、公正なしくみを構築しなければならない。法人税法上、収益事業のみ課税とする“公益法人等”(※2)として扱うことが考えられるが、多くの出資を募るために、剰余金の分配及び残余財産の帰属先に全く制限がない(※3)ものとすると、非営利性の面(※4)で相容れないものとなる。何を根拠に税制優遇を付与するのかよくよく検討する必要がある。

さらに既存業法との調整の問題もあり、詳細を詰めるほど実現に向けて検討すべき課題は多岐にのぼる。一方、従来の延長で物事を考えないことも地域創生やそれを支えるイノベーションには必要なことである。地方への移住や地域社会への貢献に関心が高まる昨今、こうした新たな制度が実現するのであれば、地方創生に直結する画期的な法人制度となることを期待したい。

(※1)特定非営利活動促進法で規定される法人。
(※2)公益法人(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律で規定される法人)や学校法人、社会福祉法人などがこの対象。
(※3)昨年5月、自由民主党日本経済再生本部が「日本再生ビジョン」の中で掲げられた「ソーシャルビジネス法人」については、配当制限と経営者報酬の制限を掲げており、利益についても社会問題の解決に循環させる内容となっている。
(※4)収益事業の行いやすさでは株式会社に近いと考えられる一般社団法人及び一般財団法人(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律で規定される法人)が法人税法上の公益法人等として取り扱われるには非営利性が求められる。

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