労働代替技術のイノベーションに期待する

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2015年06月11日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

日本経済は、全体としてみれば、力強さに欠けるものの安定しており、失業率の低下など雇用面ではむしろ需給のタイト感が生まれてきている。日銀が設定した2%の消費者物価上昇には届かないが、デフレが続く状態は漸く克服できてきている。むしろ、日本経済の課題は供給サイドになってきている。前回(2015年5月15日付コラム「働き続けられる社会」)取り上げた就業人口も課題であるが、いかに生産性を上げていくのかという課題も重要なポイントである。

生産性の上昇の方策は様々である。非効率な組織の在り方を改革すれば、生産性は高まる。組織革新という言い方がされる。日本では、この問題には90年代以降、「構造改革」を旗印に、民間企業でも公的分野でも取り組みがなされてきており、一定の成果を上げつつも、改革が進まない分野も指摘されている。

一方で、生産技術のイノベーションは90年代までは日本経済の生産性を上昇させる大きな要素だったと思われる。新しい機械、装置の導入によってそうした新しい生産技術を適用し、これまでよりも少ない労働力などの経済資源の投入で、生産質量のより向上を得るということである。例えば、60年代からの製造業におけるオートメーションの活用は、ロボットの活用を含めて相当のレベルに達した。80年代以降のIT技術の発達は多くのオフィスワークを根本的に変えた。これらの生産性を大きく上昇させる技術は当然であるが設備投資とともに進んだ。こうした設備投資を労働代替型投資と呼ぶことができるだろう。

しかし、日本の設備投資全体が停滞してきたことにより、こうした労働代替型投資も以前のように活発とは言えない状況が続いてきた。労働力が余剰であって労働力不足を補うような投資に企業は積極的ではなかったのかもしれない。労働力が余っていて低賃金で労働力を調達できるのであれば、コストがかかる機械に置き換える必要はなかったからである。この状況はだいぶ変化し労働需給はタイトになってきているので、この点から企業は労働代替型投資に積極的な姿勢に転じるかもしれない。

労働代替型投資が停滞してきたもうひとつの要因には、根本的なコスト削減につながる新しい技術革新が見えてきていないということがあるのではないだろうか。たしかにIT技術の応用などで生産性を向上させる余地はあるが、今後、労働力が大きく必要とされる分野、例えば介護等では大きなコスト削減につながる省力化投資の姿が見えにくい。どうしても人による人へのサービスという仕事のイメージがつきまとう。これを人手のかかる在り方からどう脱却するのか、費用の削減を可能にすることができるのか、大きなチャレンジである。

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