インバウンド観光と消費税免税

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2015年06月10日

  • 岡野 武志

日本政府観光局(JNTO)によれば、2014年度の訪日外国人旅行者(訪日旅行者)数は、前年度比33.6%増加して過去最高の1,467万人を記録したという(※1)。14年度の旅行収支における受取額は同6,537億円増加し、旅行収支も55年ぶりに2,099億円の黒字になった(※2)。直近の15年1-3月期では、訪日旅行者数が前年同期比43.7%増の約413万人、旅行消費額も同64.4%増の7,066億円と大きく増加しており、買物代(2,972億円:前年同期比94.8%増)は旅行消費額全体の42.1%を占めている(※3)

日本政府は、消費税免税販売の対象となっていなかった食品類、飲料類、薬品類、化粧品類その他の消耗品を含めたすべての品目を、14年10月から新たに免税対象としており、消費税免税制度を活用した誘客を進めている。今年4月からは、免税手続を免税手続カウンターに委託できる「手続委託型輸出物品販売場制度」、外航クルーズ船寄港時の臨時出店手続を簡素化する「事前承認港湾施設内への免税店の臨時出店に係る届出制度」などにより、消費税免税制度がさらに拡充されている(※4)

消費税免税店数の推移

消費税免税制度の拡充などに伴い、消費税免税店(輸出物品販売場)の店舗数も大きく増加している。14年4月1日時点で5,777であった店舗数は、15年4月1日時点で18,779に達しており、この1年間で3倍以上に拡大した(※5)(図表1)。消費税免税店は、南関東と近畿で全体の6割以上を占めているが、店舗数の増加率をみると、この期間に東北で6.0倍、中国で4.8倍、四国で4.3倍となるなど、訪日旅行者の増加に伴って、各地で名産品や特産品の販売増に期待が広がっていることがうかがえる。

ところが、15年1-3月期の訪日旅行者の主な買物場所をみると(※6)、地域の生産物を取り扱うことが多い「観光地の土産店」や「鉄道駅構内の店舗」などの利用率は低い水準にあり、相対的な位置付けはむしろ低下しているようにもみえる(図表2)。一方で都市部に多い「スーパー・ショッピングセンター」や「百貨店・デパート」などの利用率は高い。これまでのところ、訪日旅行者の買物増は、観光地域やその周辺の経済にそれほど大きな恩恵をもたらしていない可能性もある。

訪日外国人旅行者の主な買物場所(全目的:複数回答より抜粋)

情報通信や物流が発達した今日では、海外でも入手可能な日本製品が増え、特定の品物を買うためだけに、旅行者に足を運んでもらうことは難しくなるかもしれない。限られた人材で地域産業を振興する上では、人気が高い商品を選定して、自ら海外展開していく方が効率的な場合もあろう。もとより、訪日旅行に伴う買物需要は、旅行者の国の経済状況や為替水準の変化などに影響を受けることもあり得るため、買物需要に大きく依存した地域産業振興には心許ない面もある。

訪日旅行者の旅行消費額の内訳をみると(※7)、買物代が大きく増加した15年1-3月期でも、宿泊料金と飲食費の合計額(3,164億円)は買物代を上回っている。持続可能な観光地域を形成していくためには、その地を訪れる価値やストーリーを明確にし、滞在型のファンやリピーターを増やしていく戦略が有効であろう。優れた名産品や特産品は、地域の自然や歴史、伝統・文化などが凝縮された逸品であることも多い。その地を訪れた感動や思い出とともに、地域が誇る逸品を持ち帰ってもらう仕組みづくりが期待される。

(※1)「訪日外客数の動向」日本政府観光局(JNTO)
(※2)「平成26年度中 国際収支状況(速報)の概要」財務省(報道発表資料:平成27年5月13日)
(※3)「訪日外国人消費動向調査」観光庁
(※4)「消費税免税制度の改正により、免税手続カウンター等の申請の受付が始まりました。~第2弾消費税免税制度の拡充~」観光庁
(※5)「免税店(輸出物品販売場)店舗数(2015年4月1日)を公表しました」観光庁(報道・会見:2015年5月20日)
(※6)再掲「訪日外国人消費動向調査」観光庁(平成26年1-3月期報告書、平成27年1-3月期報告書)
(※7)再掲「訪日外国人消費動向調査」観光庁

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