インバウンド旅行者のささやき

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2015年03月11日

  • 岡野 武志

訪日外国人旅行(インバウンド旅行)の拡大に伴い、いわゆる「爆買い」がメディアなどに取り上げられることが多くなっている。訪日外国人消費動向調査(速報)(※1)によれば、2014年のインバウンド旅行に伴う消費額は前年比43.3%増の2兆305億円、一人当たりの消費額も前年比10.7%増の15万1,374円と推計され、いずれも過去最高額になったという。費目別では、たしかに買物代の増加が目立っており、前年比2,510億円増(54.2%増)の7,142億円と推計されている。旅行消費額全体に占める比率でも、買物代は前年の32.7%から35.2%に上昇しており、前年1位であった宿泊費(33.6%⇒30.0%)を逆転している。

概ねの傾向としては、欧米等からのインバウンド旅行は、観光やレジャーだけでなく、ビジネスや親戚・知人の訪問などを訪日の目的とすることも多く、滞在期間が数週間に及ぶことも少なくない。これに対して、アジアからのインバウンド旅行では、観光やレジャーを訪日目的とする比率が高く、滞在期間が1週間以内の旅行が多い。欧米等からの旅行では、滞在に係る宿泊費や飲食費、国内での交通費などへの支出が多いのに対し、アジアからの旅行では、旅行消費額に占める買物代の割合が大きい。2014年は、アジアからの旅行者数が大きく増加したことにより、買物代が宿泊費等を上回ったものとみられる。

2014年のインバウンド旅行消費の状況を国・地域別にみると、中国では旅行者数の増加が消費額拡大に大きく寄与しており、タイでは一人当たり消費額増加の効果も大きい(図表)。日本ブランドなどへの人気上昇に加え、近隣諸国の経済成長や為替水準の円安方向へのシフトなどが追い風になっていることがうかがえる。一方で、米国やドイツ、韓国、シンガポールなど、旅行者数は増加しているものの、一人当たり消費額が減少している国もみられる。ビジネス等を目的とする旅行者や滞在期間が長い旅行者、再訪回数が多い旅行者などが消費に消極的になっているとすれば、相応の原因を示唆している可能性もある。

特定の地域や施設への旅行者の集中によって不都合が生じているとすれば、周辺地域などとも連携した解決策が求められる。これまでとは異なる地域や施設にインバウンド旅行が広がり、十分なサービスが提供できていないとすれば、多様な言語や文化などへの対応を含め、受入態勢を整備することが急がれよう。再訪を重ねることでインバウンド旅行の効用が逓減しているとすれば、新たな価値や多様な価値を提供する仕組みも必要になる。インバウンド旅行の魅力の根底には、日本人の気づかいや思いやり、おもてなしの心がある。2020年とその先に向け、旅行者のささやきに耳を傾けるべき時なのかもしれない。

2014年訪日旅行者数変化率(横軸)と1人当たり旅行消費額変化率(縦軸)(前年比)

(※1)「訪日外国人消費動向調査 2014年 年間値(速報)」観光庁

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