北陸新幹線は子育て世代を動かすか

ライフ&ワークの充実に向けて

2015年2月2日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 コンサルタント 渡邉 愛

2015年3月14日、北陸新幹線の長野~金沢間が開業する。これにより東京~金沢間は最速2時間28分、東京~富山間は最速2時間8分となる。東京~金沢・富山間は日帰り圏内となることから、ビジネス客や観光客の流れに大きな変化が生じると考えられている。

東京の企業では、日帰り出張がしやすくなる北陸の拠点をどう活用していくか、石川・富山では、日帰りのみならず宿泊客をどのように増やすか、企業誘致をどう進めるか、といった観点からの様々な施策が検討されている。

本稿では、少し視点を変えて、東京近郊の子育て世代にとって、北陸地域へのアクセス改善がもたらすものについて考えてみたい。

各種統計やアンケート結果から東京と北陸を比較すると、就職場所としての魅力は東京が高く、北陸は低い。一方、子育て環境への満足度は北陸が高く、東京は低いといった対照性があるようだ。果たして北陸新幹線は、双方に足りないものを補い、ライフとワークの双方を充実させるための手段となり得るのだろうか。

子育て環境の満足度に影響を与える要素には、公園等の遊び場所や保育施設の充実度、病院数、周囲の親戚・知人からのサポートといった複数の要素が含まれる。このなかで、親戚・知人からのサポートに関しては、北陸地域は全国的に見ても同居もしくは近隣に住む親戚からのサポート率が高いことが影響している可能性が高い。一方、豊かな自然を活かした公園やスポーツ施設での体験、産地ならではの食体験などは、東京では容易に体験し難いものであり、片道2時間強でアクセス可能となれば、幅広いファミリー層の休日の過ごし方の選択肢に加わる可能性があるのではないだろうか(図表1)。

受け入れ地域においては、新幹線の駅から先の末端交通の整備や、子供だけでなく大人も充実した時間を過ごすことができる体験メニューの開発、子供連れ家族に役立つ宿泊サービスの拡充などを進めることが求められよう。

就職機会の充実度と子育てインフラの充実度

昨年末に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、基本目標に「地方への新しい人の流れをつくる」等が掲げられ、2020年に東京圏から地方への転出を4万人増とする、といった数値目標が示されている(図表2)。

「まち・ひと・しごと創生総合戦略」における今後5か年の政策目標

実際、東京在住者の潜在的な地方移住ニーズは決して低くない。東京在住者へのアンケート調査(※1)によれば、東京在住者の4割が地方への移住を検討したい、もしくは今後検討したいと考えており、移住したいと考えたきっかけの上位に「子育て」が挙げられている。「子育て」を理由とした移住の場合、親戚や知人の多い出身地への移住を検討するケースに加え、気候や自然環境、食べ物や水を理由により良いと考える環境への移住を検討するケースも見られる。北陸地域はこういった需要を取り込めるポテンシャルがあるのではないか。

とはいえ、いきなり移住というのはハードルが高い。まずは休日に北陸新幹線を使って気軽に北陸地域の自然や文化に触れる機会を増やし、同地域のファンを増やしていくことが大切であろう。その結果、将来的に移住という選択につながる可能性も期待できる。

同時に、移住をためらう最大の理由である「しごと」について、働き方や働く場の選択肢を広げる取り組みを産学官民がともに進めていくことが欠かせない。

石川や富山が「行きたい場所」から「住みたい場所」へと変わるには、働く場としての魅力の向上、医療・教育・交通・商業などの都市機能の充実、生活支援のための公的インフラの整備、地域の特性を生かした自然や文化の魅力の向上など、総合的な取り組みが求められる。

一部では、新幹線の開業で、より東京圏に経済活動が集中し、石川や富山の経済が衰退ししまうのではないか、とのいわゆる「ストロー効果」を懸念する声もあるが、まずはその地域で、誰のどのような欲求に応えるどのような体験ができるのか、具体的なイメージを提案していくことから始める必要があるのではないだろうか。

片道2時間程度の移動で、都心では得られない魅力的な体験ができることが分かれば、働き方やライフスタイルに変化が生じるかもしれない。

(※1)内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「東京在住者の今後の移住に関する意識調査」
移住を予定する、もしくは検討したいと回答した割合は50代男性が最も高く50.8%。10代・20代男女は46.7%。
移住したいと思ったきっかけ別では、10代・20代女性の32.1%、30代男性の20.8%、30代女性の25.5%が「子育て」を理由に挙げている(複数回答)。

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