「製販分離」か「製販一体」か

2015年1月22日

  • 経営コンサルティング部 主任コンサルタント 林 正浩

「あとは営業さんの仕事だから」「営業さんとの仕切り値は…」

コンサルティングの現場においてバリューチェーンの深部に入り込み、インタビューを重ねると少なからず耳にするフレーズだ。こちらから「営業部門や販売会社を指して営業“さん”などと表現していないですよね」と水を向けると戸惑いを隠さないクライアントにしばしば遭遇する。

メーカーであれば生産部門や技術部門、ITベンダーであればSE、不動産会社であれば住宅分譲部門、広告会社であれば制作部門やストラテジック・プランナーが販売部門に対して「営業さん」というフレーズを用いる場合、企業グループの組織形態、あるいは組織全体を覆うマインドが製販分離ベースとなっている場合が多い。「売る人」「つくる人」を分ける製販分離は売上拡大を志向する際の典型的な打ち手である。販売部門が売上拡大やユーザーサービスの向上に集中できる一方、製造部門はプロダクトアウトの発想で新製品を世に送り出すことに専念できる。プロフィットセンターである販売部門は売上責任を負い、コストセンターと位置づけられる製造部門が利益責任を負うことで、結果として事業拡大を狙う。不動産会社の場合、一定規模に達すると供給戸数に応じて弾力的に対応するべく販売会社を立ち上げるケースを見かけるが、これなど製販分離の一例といえよう。

一方、多くの業界で成熟がキーワードとなり、売上ではなく利益を重視する企業が多くなっている。「営業さん」発想の抜けない製販分離ではなく販売、製造共に利益体質を実現しやすい製販一体がむしろ昨今のトレンドといっても過言ではない。大手ITベンダーにおける営業とSEの一体化や大手不動産会社における分譲と販売受託部門の統合などは製販一体の典型例である。製販一体を基調とした組織体制においては、コストを意識した営業展開を可能にすると同時にユーザーニーズをダイレクトに商品企画部門や製造部門に伝えることができる。多様化するニーズやウオンツを開発ロードマップにも乗せやすい、即ちマーケットインの発想からは製販一体に軍配があがる。利益志向のベクトル共有、CSや経営スピードの面からも製販一体が有利といえよう。

但し、「組織は戦略に従う」の定石通り、逆に振れるケースも当然ある。例えば、前述のITベンダーは、ビッグデータやクラウド関連の新規案件の獲得強化を狙い、今までの利益重視、採算重視を基調とした製販一体を製販分離に戻してしまった。一方、赤字体質が蔓延しているにもかかわらず、製販一体組織のまま販売部門から利益責任を外し、無理な売上拡大を目指したことが裏目に出て苦境を招いてしまったメーカーもある。要するに戦略ベクトルに合致した組織デザインこそ大事なのである。

「製販分離」にせよ「製販一体」にせよ、一長一短が存在し決めつけは禁物であることは言うまでもない。しかしビジネスプロセスはどうあれ、販売部門も製造部門もユーザー視点を忘れないことが肝要であろう。

それにしても「営業さん」問題は残る。この表現の根底には、企画開発部門や製造などのプロダクト部門が販売部門に対して抱くある種の偏見や誤解があるのではないか。営業とは読んで字のごとく「業を営む」であり、経営そのものであることに論を待たない。しかしながら営業=セールスのみを請け負う、と短絡的に解釈し、「営業さん」と呼んでしまうケースも多いと推察する。組織デザインはさておき、全社的に営業という生業を正確に理解し、価値ある製品や価値あるサービスを世に送り出す中核ドライバーとして企業活動のど真ん中に据えたいものだ。

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