独立社外取締役の「助言」機能

コーポレートガバナンス・コード雑感

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2015年01月08日

2014年12月、「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(以下、コード原案)がとりまとめられた。意見対立が先鋭化しがちな案件を、スピード感をもってとりまとめられた関係者に、心から敬意を表したい。

もっとも、その内容については、疑問を感じる点も少なくない。本稿では、その中から独立社外取締役の役割・責務に関する規定(原則4-7)を取り上げたい。

コード原案は、上場会社に対して独立社外取締役の複数選任を求めている。そして、独立社外取締役が果たすべき役割・責務として、コード原案は、真っ先に「助言」(「経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと」)を掲げている。

「助言」なら、取締役会に出席し、発言する権利及び義務を有する社外監査役(会社法383条)は言うに及ばず、コンサルタントやアドバイザーでさえ果たすことができる役割だ。独立社外取締役でなければできないというものではない。

もちろん、「『助言』は、独立社外取締役の役割ではない」などと言うつもりはない。実務では、社内出身者にはない知見に基づく独立社外取締役の「助言」への期待が大きいことも確かだろう。しかし、独立社外取締役の役割・責務として、「経営の監督」、「利益相反の監督」、「少数株主をはじめとするステークホルダーの意見の反映」を抑えて、「助言」が第一に掲げられることに、筆者は違和感を抱いている。

こうした考え方に対しては、「記載の順番にこだわるべきではない。大事なのは形式ではなく実質だ」との反論もあるだろう。それなら「実質」に照らして、独立社外取締役は、「誰のため」に、「誰がとるべき行動」について、「助言」を行う役割・責務を負うのか?

一般には、「『経営者・経営陣のため』に、『経営者・経営陣がとるべき行動』について、『助言』を行う」との考え方が、当然のように受け入れられているようだ。しかし、筆者は、これに大きな疑問を感じている。

「誰のため」については、おそらく唯一の解を導き出すことは困難だろう。論者の価値観に応じて、例えば、「会社のため」、「株主のため」、「ステークホルダーのため」、「世のため、人のため」など、多様な解が考えられる。ただし、独立社外取締役が果たすべき他の重要な役割・責務(経営の監督、利益相反の監督、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見の反映)を考慮すれば、少なくとも「経営者・経営陣のため」ではないはずだ。

「誰がとるべき行動」については、確かに「経営者・経営陣がとるべき行動」との考え方にも一理ある。仮に、取締役会を、経営者(代表取締役)とその忠実な幕僚たち(業務執行取締役)により構成される業務執行機関と位置づければ、独立社外取締役は、お目付け役又はご意見番として「経営者・経営陣がとるべき行動」について第三者的な立場で「助言」を行うと考えるのが自然だからである。

しかし、コード原案は、取締役会の主要な役割・責務の一つを「独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと」(原則4-3)として、経営に対する監督(モニタリング)の役割を強調している。これを前提とすれば、独立社外取締役は、取締役会の「中核的な構成員」として、経営陣幹部の選解任、業績等の評価、利益相反の管理など「取締役会が監督機関としてとるべき行動」について「助言」を行うと考えた方がより整合性があるようにも思われる。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳