トルコに学ぶソフト輸出

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2014年12月08日

シリアやイラクにおける「イスラム国」の勢力拡大と、それに対する米国と有志連合による空爆など、周辺国の地政学的リスクの高まりに伴い経済的な影響が危惧されているトルコだが、一方では今年は観光業が好調となっている。

もともとトルコは地理的に近い欧州や中東からの観光客が多く、世界観光機関(WTO)によると、2013年(暫定値)の観光客数では世界6位(※1)となるなど、観光業は主要産業の一つとなっている。

トルコ文化観光省によると、今年1-10月までにトルコを訪問した外国人観光客数は3,300万人を超え、前年比+5.6%の伸びとなっており、今年は観光客数が過去最高を記録することも期待されている。また、外国人観光客の増加に伴い、観光収入も増加している。特に夏季の旅行シーズンの好調を受け1-9月までに前年比+8.5%の266億ドルを稼いでいる。

周辺国の不安定さにもかかわらず、観光客が増加している背景には、トルコ政府の観光促進政策の実施に加え、トルコへの「聖地巡礼」と呼ばれるドラマのロケ地巡りも要因の一つにあるとみられている。トルコは近年、文化輸出分野で急激な成長を遂げている。日本で海外ドラマというと米国や韓国ドラマなどがまずイメージされるが、現地報道によると、トルコはテレビドラマ輸出で米国に次ぐ2位となっており、100カ国以上に年間約2億ドルのテレビドラマシリーズを輸出しているということである(※2)。主な輸出先は中東やアラブ諸国、バルカン半島などの近隣国であるが、中南米の一部にも輸出されており人気を博している。内容は「ソープオペラ」とも言われる、日本の昼ドラのようなメロドラマが主流であり、その舞台も現代ものばかりでなく、近年では特に16世紀オスマントルコのスレイマン大帝とそのハーレムを描いた“The Magnificent Century(華麗なる世紀)”が世界的な人気となり、イスタンブールを訪れる観光客の増加につながっているということだ。こうした話を聞くと、以前日本で韓国ドラマがブームとなり、多くの日本人が韓国のロケ地を訪問した状況を思い起こさせる。国は違っても人間の好みや行動パターンはあまり変わらないのかもしれない。

話が逸れたが、同じ報道でトルコドラマの輸出額は2004年にはわずか1万ドルだったとされており、近年のトルコドラマ輸出の急増ぶりがわかる。そうしてみると日本政府が現在取り組んでいる訪日観光客の増加や文化輸出も、方法や売り込み方によっては将来的にトルコのような成功を収めることが可能ではないかという希望を抱かせる。その際、もちろん文化的な違いなども考慮にいれたマーケティングも必要であろうが、結局のところ、時代や国を問わずオーソドックスなテーマや愛憎模様といった、娯楽要素が高く万人が純粋に面白いと思える作品作りが最も重要なのかもしれない。

(※1)世界観光機関(WTO)「Tourism Highlights 2014 Edition日本語版
(※2)Hurriyet Daily News “Turkey world's second highest TV series exporter after US”(2014年10月26日付)

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