貧困の再生産

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2014年10月24日

  • 木村 浩一

先進国では、富裕層に富が集中する一方、中間層から貧困層に脱落する人々が増え、格差の拡大と貧困化が進んでいる。中間層にはいろいろな定義があるが、教育熱心で子供に高等教育を受けさせる経済力がある階層という定義がある。高い教育レベルにより、次世代が自世代以上の生活レベルを享受できる、あるいは少なくとも自世代と同等の生活レベルを維持できる層といえる。

国民全体に中流意識が強い日本では、多くの親が自分の子供には大学まで進学させたいと考え、子供達には自分達よりいい生活を、少なくとも自分達と同等の生活水準を保ってほしいと願っている。しかし、現実には非正規雇用が増え、1990年代後半以降雇用者所得の減少が続き、我が国でも中間層全体が没落しつつあり、相対的貧困率はOECD諸国で6番目に高くなっている。

その背景には、経済のグローバル化と途上国における生産年齢人口の増加により、労働コストが低い海外に雇用機会の流出が続いていることがある。国連の世界人口予測によれば、1990~2010年の20年間に、先進国以外の国々の15~64歳の生産年齢人口は24.7億人から37.1億人に12.3億人増加した。2020年までの10年間では、5.2億人増加の42.2億人になる予測となっている。さらに長期でみると、2010年から2100年までの90年間に、先進国の労働力は1.2億人減少する一方、先進国以外では21.1億人増加する。世界の人口動態を見る限り、今世紀中は先進国では、非先進国の雇用増プレッシャーに押され、恒常的に雇用悪化、特に若者の失業率の高止まりが続く見込みである。

経済のグローバル化が進む中で、日本の労働者の報酬を高めていくには、教育の質を高め労働者のスキルと能力を恒常的に高めていく必要がある。高報酬を得るには現実的には大学を卒業する必要があり、若者に対する無償の奨学金など先進国の中では低レベルの教育費向け公的支出の増加の他、子供の教育に熱心な中間層の維持、強化が重要である。野田政権は「分厚い中間層の復活」を政策として掲げたが、道半ばで終わった。中間層の減少は、貧困の再生産につながる大きな問題であり、現政権も積極的に取り組むべき課題であろう。

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