ふるさと納税がイノベーションを巻き起こす

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2014年10月20日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 弘中 秀之

「ふるさと納税」という言葉を耳にするようになって久しいが、あまり筆者の周りで話題になることはなかった。しかし、ここにきて今年からやってみようかという声をちらほら聞くようになってきた。この理由としては、ふるさと納税の開始から6年が経ち制度に関する認識が広がってきたこと、地方の活性化策として政府が力を入れてきていることなどが考えられる。もうひとつ忘れてはならないのが、納税者に納税先自治体からその地の特産品等が届けられるというメリットと、それをマスコミ等で取り上げる機会が増えてきたことであろう。

ここでふるさと納税がどういうものか簡単に説明する。ふるさと納税とは、自治体(都道府県、市区町村)への寄附であり、その特徴としては、自らの出身地に関係なく寄附をする自治体を自由に選べる、複数の自治体を選ぶことも可能であり、税金が控除される(※1)、使い道を指定して寄附することも可能、特産品や宿泊券等の特典を受け取ることができるなどが挙げられる。

総務省の調査(※2)によると平成25年の実績で適用者数(ふるさと納税利用者)は10万人、寄附金額は130億円(※3)を超える。今後も使い勝手の向上策などが検討されているということで、ふるさと納税の利用者は増加していくものと思われる。こうなると、これをビジネス機会と考え参入してくる会社も現れてくる。インターネットで、「ふるさと納税」について検索すると、自治体の特産品をデータベース化し、商品カテゴリー別や寄附金額別に手に入る特産品等を紹介する会社や、自治体にふるさと納税の受付のWEBサイト構築や特産品の配送、寄附者の管理等の一連の仕組み構築をトータルで支援する会社など、これをビジネス好機と捉えた会社が参入していることが伺える。また、特産品と納税者がつながることにより、特産品生産者にとっては、今まで接点がなかった人々に商品の良さや魅力を直接伝えることもできるようになる。これにより、今度は顧客として商品を購入してもらう、特産品に興味を持った人達に観光客として訪れてもらうというような可能性も広げることができる。”1日町長就任”や”農業体験”、”墓地一区画”というプランを用意している町もある。このような視点で見ると、ふるさと納税は、多様な仕掛けが可能な地域活性化のマーケティングツールでもある。

このように、ふるさと納税は、単なる地方への税源移譲策ではなく、寄附者(=消費者)、自治体、特産品生産者、それらを様々な形で支援する会社、寄附者指定の使い道に関与する会社等に対する様々な効果に加え、観光客の増加等による波及効果まで期待できる施策として捉えることができる。見方を変えると、ふるさと納税は、新規参入者を含むこれらの関係各者が、新たな価値を創造し、大きな変革を実現する潜在力を秘めた仕組みである。これら関係者が今までになかった形で結びつき、新たな価値を創造する、これはイノベーションの本質的な姿であり、ふるさと納税の仕組みは、イノベーションを実現するためのプラットフォームと言うことができる。これらが好循環し、例えば、観光産業の活性化や、都市部に所在するふるさと納税支援会社等からの税収増により税源移譲元になる都市部の自治体にも恩恵が出てくるようになれば、今、想像できる範囲を超えたイノベーションプラットフォームに成長することも期待できるのではないだろうか。

(※1)自治体に寄附をした金額のうち、2千円を超える部分について一定の上限額まで、所得税・個人住民税から控除される
(※2)総務省HP「ふるさと納税など個人住民税の寄附金税制」より
(※3)平成24年度は、東日本大震災の被災地への寄附にも多く利用され、適用者数約74万人、寄附金額は約650億円となっている

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弘中 秀之
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主席コンサルタント 弘中 秀之