「4K」・「8K」について(1/2)

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2014年09月26日

  • 小笠原 倫明

最近、家電量販店へ行くと、正面に「4K」テレビが並んでいる。結構売れ行きがよいなどとも報ぜられている。家族から「4Kって何?」と聞かれる事があるので、これについて述べてみる。

(「4Kって何?」)

4Kの「K」はキロ、数字の千を意味する。従って4Kは4千。普段我々が見ているデジタルテレビの画素は、横が約2千(つまり2K)、縦が約千であるので、画素数の合計は、2千×千で約2百万。

4Kテレビは、画素数が横4千(4K)×縦2千=約8百万で4倍になる。その効果の程(単に高精細というより、画面に立体感・奥行きがある)は、実際にお店でご覧頂いた方がよい。

業界団体の発表では、昨年の4Kテレビの国内出荷台数は約27万台。テレビ全体の5%程度。別の調査では、50型以上のテレビ販売台数に占める4Kテレビの割合が、今年5月に初めて2割を超えた。

実は、4Kへの取り組みはテレビより映画の方が先んじている。2Kではアナログ35㎜フィルムの品質を十分再現できない、とする米国ハリウッドでは、既に撮影の多くが4Kで行われている。映画館への配信・実際の上映はまだ殆ど2Kだが、最近4K対応の映画館が増えており、今後4Kでの上映が増えていくと思われる(日本の映画館の4K化率は現在1/3程度ではないかと言われている)。映画の二次的な配信手段であるDVD・BDといったパッケージメディアについても、4Kに対応した次世代のBD機器やディスクが来年にも発売されると言われている。

もっとも、映画の配信手段としては、DVD・BDより、これからはネットを経由したビデオ・オン・デマンド(VOD)が主流になるかもしれない。ネットでは既にYouTubeに様々な4Kコンテンツがアップされているが、本年4月、5千万加入者を有する世界最大の有料ビデオ配信事業者、米Netflixは、大ヒットした自社制作ドラマシリーズの4K配信を開始した。Amazon.comも、ハリウッド等と連携してVODの4K対応を促進する方針を発表している。

先進国の通信事業者やCATV事業者の最大の課題は、こうした膨大なビデオ情報の流通に如何に対応するか。我が国の通信事業者・CATV事業者も4K対応に着実に取り組んでいる。NTTグループは、本年10月から、光ファイバ加入者に4KVODサービスを開始する。これが日本における最初の4K「実用」サービスである。来年にはCATV事業者もサービスを開始する予定。

4K対応は、端末機器でも進んでいる。冒頭で「家電量販店に4Kテレビ」と述べたが、パソコン(PC)用の4Kディスプレイも様々なメーカーから販売されている(PCでの当面の4K利用はおそらくゲームになるだろう)。

最近では、スマホでさえ、4Kビデオカメラを搭載した機種が発売されている。家庭内の様々なAV機器を接続するケーブルとコネクタについても、4Kに対応した規格が昨年9月に発表され、順次製品化が進められている。

このように、4K化は、映像技術に関する、いわば世界的な潮流であって、もはや不可逆的なものと思われる。昨年4Kテレビが市場に出た頃は「3Dの二の舞になるのではないか」との声もあったが、最近はあまり聞かれない。

また、これまでの4Kの発展は、映画やインターネット(通信)の世界においてのもの。放送においてではない。4K放送が行われるか否かとは関係なく、映画は4Kで上映され、4K対応BDが販売され、ビデオ配信事業者は、通信回線やCATV回線を経由して4K映像を配信するようになる。家庭では、4KテレビでBDやVODを視聴する。スマホで撮影した子供の4Kビデオを見る。あるいは4Kゲームを…。

勿論、実利用ということでは、これらは全て萌芽的な段階だが、ご承知の通り、情報通信分野における機器の性能向上とコスト低下の速度は著しいものがある。今後の普及発展については、個人的には楽観視している(※1)

(「それじゃあ放送はどうなるの?」)

それでは放送はどうなるのか? 4Kテレビを買っても、映画等をVODやBDで見る、あるいはネットのコンテンツを見る等々だけなのか(※2)。そんな事はない。放送産業からしても、大画面のテレビを、放送以外のメディアに占有されてしまうのは望む所でなかろう。

米国では、衛星放送事業者が2016年初頭までに4K放送を開始すると発表している。お隣の韓国では、本年末に衛星での4K本放送を開始する予定であり、地上波でも来年末に本放送を開始すると発表している。

日本では、来年3月にCS衛星放送の一部で4K実用放送が開始され、2016年に、BS衛星放送の一部のチャンネルを使用して、暫定的な形で試験放送が行われると政府が発表している(※3)

(無料と有料…「ユックリしている?」事情その1)

その後「2018年にBS等で実用放送を開始」とされている。一般の方々が、どの時間帯でも、多数のチャンネルで4K放送を視聴できる環境が整うのは、この2018年頃になるかもしれない。「放送は通信(ネット)に比べるとユックリしているんですね。」と仰る方があるかもしれないが、「2018年」についても、まだ明確なプランが示されている訳ではない。今後、「2018年」=本格的な4K放送の具体化に取り組む必要がある。就中、NHKには、公共放送機関として、我が国の4K放送を先導して頂く責務があると思われる。勿論、民放テレビ局も、NHKと同時に4K放送を開始する事が望ましい。

但し、考慮を要するのは、民放局の中心が「無料」放送、CM広告を主な収入源としている事。地上波は勿論、BS衛星放送についても主要な局は「無料」放送。4K化を世界的に牽引しているのは映画産業やビデオ配信事業者と述べたが、これらはコンテンツを「有料」で提供している。ところが「無料」民放の直接のお客様は広告主。4K化の費用を賄うために、広告料を上げて頂けるのかという問題。地上波テレビのデジタル化の際にも、しばしば議論になった事柄。

従って、無料民放局が4K放送を行うに際しては、投資の速度(地デジ開始当初、民放の番組の多くはアナログを流用)、コスト回収(BD等の二次利用)等について工夫が必要。4Kについては「有料」放送の方がビジネスとして適しているかもしれないという見方もあろう。

(無線と有線…「ユックリしている?」事情その2)

ところで、2018年に4K放送はどのチャンネルで行われるのか。残念ながら、我が国では、全国の地上波テレビ局が全て4K放送を行うだけの電波は無く、当面は衛星放送によらざるを得ない。しかし、衛星放送で最も広く視聴されているBSについても、4Kに利用可能な電波は、2016年の暫定試験放送に使用されるごく少ない幅しかない。次稿で述べる「8K」放送も考えると、まだ使用が国際的に認められていない電波も活用する事が不可欠。そのためには、今後、近隣諸国との混信を避けるための調整が必要である。

何れにしても、先ずは、こうした新しい電波も含め、4K(+8K)放送に用いられるチャンネル全体の利用方針を、政府が早急に示す事が必要。それがなければ、関係者の作業が始められない。衛星の打ち上げ、放送用設備の調達、端末機器の製造ラインの手当、引いては、家電量販店に見えたお客様に、店員の方がどういう話法で説明するかに至るまで。このチャンネル利用方針は、残念ながら今夏までに結論を得られず、来夏を目途に仕切り直しされた模様であるが、今後更に遅れることのないよう期待する。

「何だかよく分からないけど、無線の世界って面倒なんですね。」とお感じになるかもしれない。技術的説明は略すが、面倒でない?有線(光ファイバ)は、無線に比べ大容量化への対応が容易。従って、4K・8Kでは、映画等のVODのみならず、放送でも有線の比重が高まる可能性がある。

※続きは10月3日(金)に掲載。

(※1)電子情報技術産業協会の調査では、グローバル市場での4Kテレビ需要は、2013年の約98万台(実績)から、2018年の約6,733万台に増加すると予測されている。なお、同期間の国内需要は約27万台→約518万台 。
(※2)4Kテレビは、4KのVODやBDを視聴する以外に、(4Kでなく)2Kの放送を視聴しても画質が改善されるという効果を有する。
(※3)我が国の衛星放送には、広く視聴されている順に、①BS放送、②110度CS放送、③124/128度CS放送がある。来年3月に4K本放送が開始されるのは③。2016年に、①の一部(使用する電波の量で1/12)で、暫定的に4K・8Kを時間帯を分けて使う形で、試験放送が開始される。

 

小笠原 倫明

元総務事務次官。1976年京都大学経済学部卒業 郵政省入省。情報通信政策局長、情報通信国際戦略局長、総務審議官(郵政・通信担当)を経て2012年に総務事務次官。2013年10月~2015年6月大和総研顧問。

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