「家計金融資産VS政府債務」?

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2014年09月04日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

日本銀行「資金循環統計」速報によると、2014年3月末現在、国内非金融部門は全体で3,208兆円の金融資産を保有している。金融機関や海外部門とのやりとり分を差し引くと、国内非金融部門が持つ負債は2,977兆円である。凄まじいバランスシート調整を進めてきたとはいえ、民間非金融法人企業は1,274兆円の負債を有しており、政府もそれに匹敵する1,158兆円の負債を持っている。

住宅ローンなどを抱える家計部門は368兆円の負債も有しているが、他方で1,630兆円の金融資産を持っている。家計金融資産は1995年度末に1,256兆円だったから、失われた15年~20年などと言われた中でもそれなりに増えたことは踏まえたい。しかも、高齢化で貯蓄を取り崩す家計が増えているのに、家計金融資産は増え続けている。超高齢社会でも時価評価された金融資産ストックはそう簡単に減らないだろう。

ところで、政府の負債残高が家計金融資産にもうすぐ追いついて、財政が破綻するという議論がある。しかし、極端な例だが、政府が毎年、国債を発行して得たお金を国民に配っても、人々がそのお金を貯蓄すれば政府債務と家計資産が両建てで増え続ける。中央銀行が準備預金を一定にしようと金融調節を行っているとき、銀行が準備を取り崩して国債を購入すれば、やはり経済全体で政府債務と民間資産が両建てで増える。欧州のソブリン危機がそうであるように、財政問題とは政府債務と民間資産が同時膨張することだ。

政府債務と家計金融資産の比較に意味がないと述べているのではない。筆者は現状の財政構造を改革しなければ、2020年代後半までには政府債務が家計金融資産を上回ると予測している。国債や地方債が直接・間接に家計部門以外によって保有される状況とは、対外債務国になる以上に憂慮すべき事態である(筆者は、2020年代に日本が対外純債務国になるとは予想していない)。

すなわち、生産性を引き上げる動機を持つはずの事業会社が生産設備ではなく、政府に対する債権を資産として保有するということは、活力を完全に失った社会の到来を意味する。あるいは金融機関が国債を大量保有する状況とは、預貯金という民間に対する負債とのバランス上で金融システムの持続性を失うということである。あるいは中央銀行が国債を過度に保有する状況になれば、いずれ通貨価値の問題を生じさせる。財政や税制の改革を、大きな展望の下で進めるべきだろう。

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鈴木 準
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