労働代替型投資に成長の活路

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2014年08月08日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

ここにきて労働需給に引き締まり感が強まっていることが注目されている。昨年までは、公共事業に関連した建設分野などで人手不足が顕在化したが、現在はしだいに全般的な人手不足が出てきている局面である。有効求人倍率(季節調整値)が2014年6月は1.10倍に上昇してきており、1992年6月以来22年ぶりの高さとなった(厚生労働省「一般職業紹介状況」)。80年代後半のバブル期でも有効求人倍率が1.10倍となったのは1988年10月であり、国内設備投資が急回復し、労働力需要が高まって景気に過熱感が表れ始めた頃であった。今回は景気回復が続いているとはいえ、こうした過熱感があるわけでもなく、労働力需給がタイトとなっている背景には供給側の制約という問題も大きいといえる。6月までの1年間で労働力人口は41万人増加したが、これまで労働市場から一時的に退出していた人が景気回復で戻ってきたという面が強い。生産年齢人口は同期間で117万人、1.5%減少している。これはかなり急な減少だといえる。一時的に退出した人が労働市場に戻ってくる現象が一巡すれば、生産年齢人口の減少の影響が労働力の供給には大きく影響してくる。

このように、日本には労働力の供給が減少し続けるという問題がある。そして、それは人口全体の減少よりも速いペースで起きている。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位(死亡中位)推計によれば、今後5年間(2014年~2019年)で全体の人口が226万人減少するのに対し、生産年齢人口(15歳-64歳)は379万人減少する見通しである。生産年齢人口の年平均減少率は1.0%にもなり、経済成長を供給側から抑制する要因となってしまう。この影響を緩和して労働力人口の減少を小さくするには、女性や高齢者の労働市場への参入を促さなければならないが、それだけでは経済成長のためには力不足であろう。

労働力が減少しても供給力を増加させるためにはどうしたらよいか?労働力に替わる機械の活用だろう。つまり、労働代替型投資が必要だということになる。労働代替型投資と言えば、すぐに思い浮かぶのは「ロボット」だろう。人手が不足してくれば、人の代わりができる機械が注目されるのは当然だろう。日本の産業のロボット化はおそらく80年代に自動車産業で始まってから製造業では組み立てに至るまで大きく応用されてきて、生産工程の機械化という点ではすでに行き着くところまできているのかもしれない。一方で、労働を代替する機械をまだまだ利用可能なのは広義のサービス産業だろう。IT化はすでに一定の役割を果たしたが、医療・介護分野をはじめ応用分野を開拓していくことが日本の産業の課題であると思われる。

ただし、マクロ経済のバランスで考えると、労働代替型投資に利用される機械を製造するのに労働力が必要になるので、急激に伸びればマクロ的な需給逼迫につながるなどの副作用もある。投資活動全体の中で民間の労働代替投資が徐々に高まっていくことが望ましい。

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