人手不足は地方経済回復の証し

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2014年08月07日

  • 小林 卓典

80年代末の土地バブルの頃、労働需給が逼迫し、人手不足にいかに対処すべきかが盛んに議論されていた。中小企業の人手不足倒産が社会問題となり、テレビの討論番組では移民を受け入れるべきかどうかを巡って激論が交わされていたことを思い出す。あれから20数年がたち、再び人手不足が問題となっている。

図表1は、雇用環境が急速に改善した北海道、青森県、高知県、沖縄県の有効求人倍率の推移を表している。6月の時点で青森ではバブル期のピークをわずかに下回っているが、北海道、高知、沖縄ではすでにバブル期を上回っている。

これらの県の有効求人倍率はつねに全国平均を下回ってきたが、特にリーマン・ショック前の景気拡大期(02年2月~08年2月)では、有力な輸出企業が少ないこともあり、好景気の恩恵をあまり受けることがなかった。そのため、有効求人倍率の上昇はまったく盛り上がりに欠けるものとなっていた。それと比べ、今回の労働市場の改善は著しい。急速に労働需給がタイト化した背景は地域ごとに異なるが、生産年齢人口の減少、公共投資の拡大、訪日外国人の増加がやはりキーワードといえそうだ。

働き手の減少は、東京など首都圏や沖縄など一部の県を除く多くの都道府県に共通する問題だが、なかでも青森と高知は生産年齢人口の減少ペースが速い。労働供給に制約がある中、公共投資と個人消費による内需主導で景気が回復したことが、求人数が大幅に増加した背景にある。北海道では公共投資に加え、訪日外国人の増加で観光関連産業が活況を呈していることが大きい。これは沖縄も同様であり、有効求人倍率は着実に上昇している。

その結果、賃金はどうなっているかだが、図表2は各県の名目賃金(事業所規模5人以上、きまって支給する給与)の変化を示している。北海道、青森、高知では全国よりも賃金の伸び率がかなり高くなっている。沖縄の賃金が減少しているのは、生産年齢人口が増えているという沖縄特有の理由があり、労働供給にまだ余裕があるということだろう。

今後については、消費税率引き上げ後の個人消費の反動減に加え、公共投資が年度内に減少に転じる可能性が高いことから、人手不足はある程度緩和されるだろう。ただしこれはあくまで短期的な話であって、構造的な労働供給の減少は続く。人手不足をネガティブにとらえるのではなく、地方経済に久しぶりに訪れた景気回復の証しとして、いかにこれを持続させるかが重要だ。

図表1 有効求人倍率

図表2 賃金の推移

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