東京スカイツリーにみる収益施設併設型PFIの成功のヒント

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2014年07月01日

先日、開業2年目にしてはじめて東京スカイツリーに上った。午後3時、入口フロアで展望デッキ当日入場券の購入用整理券を受け取った。みると当日入場券を買うための待ち合わせ時間は午後5時半だった。

待ち合わせ時間まで2時間半あったので、その間に下階に併設されているショッピングセンター「東京ソラマチ」をブラブラ歩いた。子どもは週刊少年ジャンプのコンセプトショップでグッズを物色。筆者は三省堂で立ち読みした。集合場所に早めに着いておきたいと思い、チケットカウンターと同じ階にあるスカイアリーナのオープンテラスでコーヒー片手にくつろいだ。青空の下のステージでは大道芸人がジャグリングを演じている。夕暮れ時、東京スカイツリー展望デッキで地上350mの眺望をみながら考えた。東京スカイツリーに「収益施設併設型PFI」の成功モデルが隠されているのではないか。

PFIとは民間の資金とノウハウを活用して公共施設を整備する手法をいう。そのタイプのひとつに収益施設併設型PFIがある。公共施設に収益施設を併設し、利用料金を徴収することで、公共施設の整備コストを節約。ひいては国や地方公共団体の財政負担を減らそうとするものだ。そもそも、これがうまくいくかはパートナーとなる民間企業が当の官民連携プロジェクトに投資対象としての魅力を感じるかにかかっている。

よくみると、スカイツリーを公共施設、東京ソラマチを収益施設に見立てた収益施設併設型PFIのビジネスモデルが成り立っていることに気が付く。まずは公共施設が収益施設の集客マグネットとして機能している。公共施設が広域から人を引き寄せ、収益施設に回遊させるモデルが成立している。このモデルが成り立てば収益施設併設型PFIはうまくいく。展望デッキを目当てに来た客が、そこに上るまでの待ち時間で買い物や食事を楽しむのだ。待ち時間だけでない。展望デッキから降りた後でも楽しめる。そういえば正月に実家の母と来たときは帰りに東京ソラマチで東京みやげを買いこんでいた。上る前に買うと荷物になるからだった。

このモデルを物差しに他の公共施設を考えてみる。たとえば空港。乗り換え等で空港ビルに必然的な待ち時間が発生するならば収益施設型PFIの可能性が一段高まる。空港が収益施設のお客を囲い込むようにはたらくからだ。ときおり待たされることがあるので筆者は手荷物検査の行列に早めに並ぶ習慣がある。その後離陸時間までの時間を搭乗ロビーで過ごす。喫茶店で時間をつぶしたり機内で読む雑誌を探したりする。帰りの便でも、筆者のように日頃ショッピングセンターに行きつけないビジネスマンは案外重宝するものだ。後は自宅に帰るだけという気分も手伝って、大きめの本屋があるとついついまとめ買いしてしまう。

次に公立病院を考えてみる。収益施設併設型PFIの公立病院がトレンドになると筆者は見込んでいる。大病院を称して「3時間待ちの3分診療」という言葉がある。決して褒められた話ではないが、3時間待ちの弱みを強みに転化するアイデアもある。病院に朝早く来て受付を済ませ、呼び出しがかかるまでの待ち時間を併設のショッピングセンターで過ごすのだ。受付のときに呼び出しブザーを受け取るようにするのがよいだろう。フードコートで食事を注文したときに渡されるものと同じである。診療後に立ち寄るニーズもある。せっかく街に出てきたのだから帰りに買い物も済ませられれば便利だし、そもそも体調がよくないのだからあちこちしたくない。また筆者の妻は毎年人間ドックに入るたび、病院にレストラン街があればと言っている。食事制限明けのランチはひときわ美味いようだ。いずれにせよ、大病院に連続するスペースは商業施設にとって魅力的な立地環境である。病院を、医療サービス付のホテルと捉えるとアイデアは一層膨らむ。レストラン、アーケードなどホテルに付いているものはだいたい収益施設併設型PFIの病院にも成り立つ。意外に未開拓の成長分野なのではないか。

まとめると、東京スカイツリーと東京ソラマチの関係から連想する収益施設併設型PFIの成功条件は3つある。第一に、公共施設が人を強力に引き寄せるものであるか。病院や空港のように「義務的に」行かなければならない性質であればなおのことよい。第二に、ついでの時間が発生するか。受付と本番の間に手待ちの時間をつくることができればもっとよい。第三に、公共施設が顧客を囲い込む構図があるか。併設施設以外の商業施設を使うのがめんどうかである。高速道路のサービスエリアのように、いったん乗り入れればそこしか選べない状況を作ることができれば一番よい。駅ナカビジネスにとっての駅も同じようなものだ。逆に言えば、公共施設の集客力が限られており、目的が済んだらすぐ帰るような具合で、すぐ近くに競合するショッピングセンターがあるような収益施設併設型PFIはうまくいく理由がない。そうしたプロジェクトは再考の余地がある。

東京スカイツリーには電波塔だけでなく水族館やプラネタリウムなどの「公共施設」が整備されており、それぞれ収益施設の東京ソラマチの集客に貢献している。東京ソラマチの年商は470億円とルミネ新宿に次いで全国7位の売り上げとなった。ちなみに羽田空港第1・第2旅客ターミナルビルはそのさらに上をいく4位である(※1)。東京スカイツリーに収益施設併設型PFIの成功のヒントが隠されている。公共施設の磁力、「ついで時間」の存在、そして囲い込みの関係。収益施設併設型PFIを検討しようとする場合のチェックポイントとしたい。あらためて説明するまでもなく集客コンセプトを明確にしたこれら「公共施設」は民間経営である。餅は餅屋に。官民連携まちづくりのヒントがここにある。

(※1)週刊ダイヤモンド2014年6月7日号、65ページ、特集「百貨店包囲網」ショッピングセンター売上高ランキング
拙稿「ショッピングモールに学ぶまちづくり~集客装置の整備は官民連携がカギ」(2012年8月24日付コンサルティングインサイト)も参照されたい。

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鈴木 文彦
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 鈴木 文彦