クールジャパンは「遊び心」から

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2014年06月24日

  • 中里 幸聖

クールジャパンという言葉がある程度定着し、政府が「クールジャパン推進会議」を設置し(2013年2月)(※1)、官民共同で資金支援などを実施する組織として「クールジャパン機構」(株式会社海外需要開拓支援機構)が設立される(同年11月)など、日本のアニメやマンガ、ゲーム等のコンテンツやファッション、文化、伝統などソフト面での国際的な発信力を強化しようという試みがなされている。

4年程前に書いたコラム「日本の『遊び心』を積極的に評価しよう」(2010年2月4日)で、「我が国の『遊び心』から生み出された様々な成果に自信を持ち、もう少し組織的に世界に普及させるような活動をすれば、我が国の閉塞感を打破る契機となり、そこに新たなビジネスチャンスも生じるであろう」と書いたように、政府などがわが国のコンテンツ等の国際的な発信に取り組もうという姿勢は大いに評価できる。しかし、その進め方については注意が必要であろう。

世界から評価されているわが国のさまざまな文化コンテンツはいずれも自分達自身が楽しむために創作してきたものである。いわば「遊び心」の発露あるいは自己表現の欲求などが根源にある。他国の若い世代を中心に評価されているクールジャパンの中身、すなわちマンガやアニメ、ゲーム、ファッションなどの現代的な文化(※2)、あるいは茶道、華道、花火、浮世絵などの伝統的な文化といったコンテンツそのもののあり方については、庶民の「遊び心」に任せるべきである。そしてそうしたコンテンツの評価も、庶民が形作っていくものである。

しかし、「クールジャパン推進会議」といった推進体制を外部から見る限りにおいて、現代文化のコンテンツの中心にいるマンガ家、ゲームクリエイター、アニメ映画監督などがメンバーに含まれておらず、かれらの意見や感覚が反映されているのか十分には見えにくい面もある。現代の匠たるマンガ家やアニメ映画監督などの製作者達は、各々のコンテンツを作成するのに没頭したい人が多いと推測される。かれらの意見や感覚を十分反映させ、「遊び心」を活かすものにすることが重要であろう。

さらに、近年、マンガやゲームの表現等に対する規制がしばしば議論され、また、各種の表彰制度などを含む一定の基準による製作者への支援制度なども議論されている。しかし、それらはコンテンツの画一化の傾向に繋がる可能性があり、多様なコンテンツの制作を阻害する方向に働きかねないリスクもあろう。

政府は海外発信のツール整備や係争処理のバックアップなど、あくまで後方支援を中心とするべきである。「甲乙つけがたい」という言葉があるが、こうした白黒つけずに両方を評価するような姿勢こそ、多様なコンテンツが育っていく土壌である。また、年齢的な制限や公的な場での公開等についてはある程度規制は必要であろうが、最低限にとどめておくことが肝要であろう。

(※1)2014年4月より「CJムーブメント推進会議~クールジャパンをデザインする~(第2期クールジャパン推進会議)」が開催されている。第1期とされている「クールジャパン推進会議」は2013年3月~2014年5月まで開催され、「クールジャパン戦略についての基本的考え方」などを発表した。
(※2)わが国の現代文化がいかに世界の若者を魅了しているかは、酒井亨『中韓以外みーんな親日 クールジャパンが世界を席巻中!』(ワニブックス【PLUS】新書、2013年10月)に詳しい。同書では、日本文化が韓流に押されているという一部の報道等の誤りも指摘している。

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