証券会社・金融機関と国際的な租税回避対応(FATCAとAEOI/GATCA、BEPS)

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2014年05月15日

  • 吉井 一洋

米国のFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)に類似する自動的情報交換制度(Automatic Exchange of Information)がOECDにおいて検討されている。AEOI、あるいはFATCAのForeignをGlobalに置き換えてGATCAとも呼ばれている模様である。

今年7月施行の米国のFATCAは、米国の富裕層が海外の金融機関の口座を利用して資産隠しや租税回避を行うことを防止するために導入された。外国金融機関に対して、米国人(個人・法人)の口座がある場合に、口座に関する情報を米国の税務当局に報告するよう求めるというものである。協力しない金融機関や顧客には、30%の源泉税を課す。ただし、わが国の金融機関は、日米当局声明により、源泉徴収義務を免除されている。報告に同意する米国人口座の情報は、米国の税務当局に個別情報を送付し、同意しない米国人顧客の場合は、口座の開設・維持を断るか、金融機関ごとの総件数・総額をまとめて送付し米国の税務当局から租税条約に基づく調査協力の依頼があった場合に各口座の情報を提供する。

AEOI/GATCAは同様の仕組みを、多国間の共通の枠組みとして導入するものである。ただし、報告対象は非居住者(米国の例でいえば、米国人か否かではなくわが国にとって非居住者か否かで判断する)であり、各国が国内法を整備し相手国の請求がなくても自動的に報告できるようにすることを想定している。6月にOECDで制度の内容を決定し9月のG20で承認を得る予定である。G20では2015年末までの開始を期待している。本人の属性や納税者番号、口座残高や年間受取総額などの報告が必要なため、番号を含めた本人確認手法を確立する必要がある。国内法の整備なども必要である。これらを考えると、わが国の場合は、2015年末までの開始というのはきわめてタイトな日程である。また、せっかく制度を整備しても、他のOECD加盟国やG20以外の国やタックス・ヘイブンもこの制度を導入しなければ制度の実効性を保てず、徒労に終わりかねない。

OECDでのBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)の議論も経済界から注目されている。一部の多国籍企業の行き過ぎた租税回避行為に、各国が協調して対処することなどを目的としている。2013年7月にOECDとG20の合同プロジェクトとして15の行動計画が公表された。2014~2015年にかけて内容を固めていく。

BEPS行動計画では、移転価格税制や租税条約濫用防止の他に、行動2のハイブリッド・ミスマッチの無効化が注目される。例えば、支払側の国では利子として損金算入し、受領側の国では配当として免税され二重に非課税となっているハイブリッド商品に対し、支払側の国で損金算入を否認するか、受領側の国では配当免税をせず課税する等で対応する。自己資本強化のため海外で劣後債や優先株式など資本・負債の中間的な商品を発行している金融機関や事業会社などが影響を受ける可能性がある。今年の9月を期限としている。

また、OECDのガイドラインを踏まえ、国境を越えたインターネットによるサービスへの消費課税がわが国で検討されている。非課税取引が多い証券会社や金融機関は仕入税額控除が十分にできない可能性があり、注意が必要である。

上述したのはあくまで1例であり、今後1~2年の国際租税の動きに、十分に注意を払っていく必要がある。

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