外国旅行と国際収支

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2014年05月09日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

前々回、前回に続いて国際収支についての話題を追ってみよう。ゴールデンウィークで外国に旅行に出かけた方も多いだろう。今年は景気が上向いたせいか、ヨーロッパなど遠方に旅行する方が増えたと聞く。

ところで、外国に旅行する、あるいは外国から旅行者が来ると、国際収支にはどのように反映されるのだろうか?外国に旅行する費用というと、航空機を使う場合がほとんどだと思うが、航空運賃があり、旅行先での宿泊費、食費や交通費があり、お土産の購入もあるだろう。外国とのお金のやり取りを含むので、国際収支に反映しなくてはいけない経済取引だ。国際収支統計での扱いは、航空運賃は運輸サービスとして扱われ輸送収支に入るが、そのほかは旅行収支に計上されることになる。旅行収支に含まれるのは、「(1)宿泊費、食事代、娯楽費、現地交通費、(2)土産品、(3)出張費、(4)海外での留学費、医療費、(5)ツアー代金、等」(日本銀行国際局「『国際収支統計(IMF国際収支マニュアル第5版ベース)』の解説」)となっている。

外国に旅行に行くのは旅行サービスを「輸入」すること、外国から旅行者が来る場合は、旅行サービスを「輸出」することと考えればよい。経済成長との関係でとらえると、日本人が外国に旅行すればGDPが減り、外国から旅行者が来ればGDPが増えることになる。外国から観光客を誘致することはGDP成長の要因になるということだ。

実際の日本の旅行収支の状況をみてみよう。(図表参照)2013年の支払いが2兆1,457億円、受取りが1兆4,575億円で、収支は6,882億円の支払い超(赤字)となっている。円安となっていることなども影響しているのか、支払額は数年前に比べると減少しており、受取額は波があるものの増加傾向にあるようだ。日本がさらに本格的に外国からの旅行者を受け入れていけば、将来、旅行収支が均衡もしくは黒字になるかもしれない。

もっとも、観光旅行のお土産代などは、免税の範囲で購入するケースがほとんどだし、宿泊費や食費もいちいち申請されるわけでもないので、旅行サービスを正確に把握した統計はできない。そこで、実際の統計はアンケート調査などから推計されている。日本の統計では、「旅行者の一人当り消費額」に「旅行者数」を乗じて推計しているそうだ。日本人の外国旅行については、「旅行者の一人当り消費額」について、(株)JTB総合研究所の「海外旅行実態調査」を基礎データに使い、外国人の国内旅行については、観光庁による「訪日外国人消費動向調査」(四半期)を基礎データとしているそうである。

さて、旅行に関連する国際収支としては輸送収支も大きく、無視できない。輸送収支の航空輸送旅客分についてみてみると、2013年は支払いが1兆101億円、受取りが1,734億円で圧倒的に支払い超の構造になっている。日本の居住者が外国に旅行する場合は、日本の航空会社を使っていく場合、航空運賃は国内への需要であり、国際収支には関係がないが、外国の航空会社を使った場合には、運輸サービスの「輸入」となる。外国人が日本の航空会社を使えば運輸サービスの「輸出」となる。外国人にもっと日本の航空会社を使ってもらうようマーケティングを強化することも収支改善のポイントかもしれない。

日本の旅行収支

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