化学物質排出量約41万トンの1割強は家庭から

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2014年05月07日

  • 伊藤 正晴

かつて、特に高度成長期には、工場などの排煙や排水等に含まれる有害物質による公害が大きな問題となったが、排煙や排水等のクリーン化の進展などにより、これらに関する話題を聞くことが少なくなってきた。しかし、環境中へのさまざまな化学物質の排出がなくなったわけではない。

平成26年3月6日に公表された経済産業省、環境省「平成24年度PRTRデータの概要」によると、平成24年度の1年間において大気や水などに排出された化学物質は406千トンであった。PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)制度(※1)は、化学物質排出把握管理促進法(化管法)に基づいて、一定の条件に合致する事業者(※2)が届け出た化学物質の排出量(届出排出量)などを把握し、集計し、公表する仕組みである。また、届け出の対象外である事業者、家庭、移動体からの化学物質の排出量(届出外排出量)の推計も行われている。

平成24年度中の届出排出量は162千トンであった。化学物質の排出先は大気への排出が147千トン、公共用水域への排出が7.7千トン、事業所内の埋立処分が7.5千トンなどで、ほとんどが大気中への排出となっている。業種別では、輸送用機械器具製造業(37千トン)、化学工業(20千トン)、プラスチック製品製造業(19千トン)などからの届出排出量が多い。

届出外排出量は244千トンと推計されている。その内訳は、対象業種(届け出の対象業種に属するが他の条件に該当しないために届け出る必要のないもの)が44千トン、非対象業種(届け出の対象となっていない業種)が83千トン、家庭が52千トン、移動体が64千トンとなっている。また、自動車が51千トンで、移動体からの排出のほとんどを占めている。家庭から排出されている化学物資は、ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテルが19千トン、ジクロロベンゼンが11千トン、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩が8.3千トンなどとなっている。これらの化学物質のうち、ジクロロベンゼンは主に防虫剤・消臭剤として使用されており、他の2種は界面活性剤として化粧品、人体用洗浄剤、洗濯・台所・住宅用等洗浄剤に含まれていることが多い。風呂、洗濯や掃除など、家庭での日常生活が環境中に化学物質を排出する主因となっているようである。

我々の日常生活は、化学物質を原材料にしたさまざまな製品によって支えられているが、その製品を製造する際や廃棄する際に化学物質が環境中に排出されている。家庭からの化学物質の排出は、個人や家庭単位では少量であろうが、全国で推計すると52千トンというとても無視できない量になっている。温室効果ガス(GHG)による気候変動問題、PM2.5による人の健康に対する懸念なども大きな課題として取り上げられている。化学物質の排出による環境リスクを減らすために、事業者は事業活動に伴って排出される化学物質を減らす努力の継続が求められようが、家庭生活においても、製品などに含まれる化学物質について意識し、今後も化学物質の排出の削減を心がけることが必要ではないか。

平成24年度の届出排出量、届出外排出量(千トン)

(※1) PRTR制度については、経済産業省のWebサイト「PRTR制度」や環境省のWebサイト「PRTRインフォメーション広場」に各種の情報が掲載されている。
(※2)業種、従業員数、対象化学物質の年間取扱量等で届け出の対象事業者を定めている。

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