増税前の駆け込み消費で得をするとは限らない

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2014年04月14日

4月1日、17年振りに消費税率が引き上げられた。増税前の駆け込み需要がどの程度であったのかは、3月分の消費統計が発表される4月下旬まで待たないと明らかにはならない。ただし、2月初めから3月初めにかけて実施された日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」によると、予定を含めて約4割の人が増税前に前倒して支出したようだ。実際、3月末には一般小売店やガソリンスタンドで異例の行列が見られた。感覚的には今回の駆け込み需要は大きかったように思う。

消費税増税による経済への悪影響といえば、駆け込み需要の後に来る反動減が注目されがちである。しかし今回の増税を通じて、駆け込むことは安く買えるというプラス面ばかりではないことを多くの人が認識したのではないだろうか。

増税で値上がりする前に買い溜めようとするのは合理的な行動である。だが、大勢の人が一斉に行動すると、需要に対して商品やサービスの供給が追い付かず、何時間も待たされたり希望する商品が買えなかったり、配達物に遅延が生じたりするといった問題が生じる。とりわけ3月末にそのような状況に直面し、不利益を被った人は少なくないだろう。その不利益の方が節税した利益よりも大きいとしたら、必ずしも得をしたことにはならない。

また、値動きが大きく需給で価格が変化しやすい商品やサービスでは、増税前に駆け込んで買うよりも、需要が落ち込む増税後に買った方がむしろ安かったという経験をした人が既にいるかもしれない。先述したアンケート調査では、増税前に前倒して購入した商品・サービスの最上位に家電を挙げているが、家電はまさにそうした特徴を備えている。例えば、家電通販検索サイトで最も売れ筋(4月10日時点)の液晶テレビの平均価格を見ると、税込価格であるにもかかわらず足元では3月末よりも安くなっている。

こうした教訓を踏まえた消費者であれば、2015年10月に予定されている10%への消費税率引上げ時に、今回とは異なる行動をとるだろう。すなわち、駆け込みを避けようと購入時期を分散させる人が増えるのではないか。消費のタイミングが分散すれば、駆け込み需要もその反動減も小さくなる。経済全体にとっては資源配分の非効率が改善されるので望ましいし、駆け込み需要とその反動減を緩和するための経済対策は小規模で済むので財政面でもプラスである。

消費税増税は家計の購買力の一部を政府に移すことだから、景気の悪化は基本的に避けられない。しかし、増税の目的が社会保障制度の充実と安定化である以上、増税はある程度受け入れざるを得ないし、社会保障制度からの受給の安定性という点では家計にプラスである。問題は、いかに増税時の一時的な痛みや混乱を小さくできるかである。その意味で、消費者が17年振りに消費税率引き上げを経験したことで、今後の税率の引き上げ時に、より成熟した対応がどれだけできるかがポイントと言える。もちろん、多くの人が夏休みの宿題で経験したように、頭では分かっていても必ずしも合理的でない行動をとりがちであることも事実である。いずれにせよ、2015年10月の増税時における消費者の対応の変化に注目したい。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司