ITは簡単でムズカシイ

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2014年01月06日

  • 秋屋 知則

輻輳 失礼ながら、お読みになれるだろうか、あるいは意味はご存じだろうか。私事で恐縮だが最近、業務の関係でIT系の用語に触れることが増えた。恥ずかしながら、その中で知った言葉だ。そもそもITとさらりと書いたが、これはInformation Technology、情報技術という英語の頭文字を取ったものだが、最近ではこれに通信(Communication)を間にはさんで、ICTと呼ぶこともあり、簡単にはいかない。およそ外来のものが多いので横文字の表記が多いが、日本語でも興味深い言葉も少なくない。

例えば、“生死(死活)監視”という用語も初めて見てドッキリした。しかしシステムの保守運用会社のパンフレットにある24時間365日のネットワーク監視体制の実現といった説明の中でalive monitoringの和訳だと分かれば合点がいく。また、訳という意味ではパソコンが作業中に動かなくなってしまうことを“落ちた” するのは案外、秀逸ではないかと思う。これは英語ではsystem downと表現する状態なのであろうから、直訳といえるかもしれないが格闘技で絞め技が決まったように相手がぴくりとも動かないのを、落ちてしまったというのは当を得ていると思う。

さらにオチといえば、だらだらと文章は長くならない、冗長にならないように気をつけなくてはいけないが、IT業界で“冗長化”というとまた、ニュアンスが違うらしい。仮にシステムがダウンしてしまったときでも、継続的にサービス提供ができるように2の矢、3の矢、すなわち二重化、三重化によりカバーできるように、本来、必要とする以上のバックアップ装備をしておくことの意味らしい。したがって断絶してはならないシステムでは、冗長化(redundancy)は悪いことではなく、必要かつ重要なことなのだろう。

取引所など、障害や誤作動が許されない性格を持つシステムをミッションクリティカルと呼ぶそうだが、ターミネータといったそのままの言葉ばかりでなく、ゼロデイアタック、ステルススキャン、タイムアウトなどと読むと、まるでSFか、スリルに溢れたハリウッド映画の題名のようでもある。

このようにIT用語には日本語でも英語でも門外漢にはわからない難しい言葉が多い。しかし、このところのITの発展・定着においては、テクノロジーの進歩によって処理速度が向上したことに加えて、(裏側のシステムの難しさはともかく)表側ではアイコンをクリックするなり、タッチ、タップするなりして簡単に機器を操作できるようになったことが大きかっただろう。我々を究極の専門用語であるコマンドといった暗号から解放してくれたことが、利用者の幅を格段に広げたに違いない。しかし、高速で高度な要求は、ムーアの法則ではないがとどまることを知らないだろう。むしろ、それが未来の夢の実現につながっていくことになる。新しい機器やシステムが生まれるたび、ほとんどの人には知られることはないが、そのニーズを満たすための要件としての新しいコンセプトの専門用語が必要とされ、そのソリューションを探求して難題を解決していくのだろう。まだまだ、びっくりするようなイノベーションの余地は残っている。新しいIT機器に触れるとき、それを研究・開発するために必要とされたであろう言葉について考えてみるのも面白い。

ちなみに冒頭の言葉、ふくそうと読むそうだ。「交換機の一定時間内に処理できる能力を越える電話が集中することにより発生するいわゆる『電気通信網の渋滞』」(NTT東日本のウェブサイトより)を指すという。すなわち電話をはじめ通信などで回線がパンクしそうな状況のことだが、災害時、連絡手段を確保するために一定の制御が重要なことはいうまでもないが、これだけITが普及した今、人気のコンサート・チケットの予約をするとき、簡単につながらないので何時間も電話し続けるのは、どこか納得がいかない。

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