2014年の中国経済を展望する

2013年12月27日

  • 常務理事 金森 俊樹

中国経済が構造改革を進めていくべき時期にさしかかっているという認識は、注目された11月の三中全会、その後の党政治局会議、党と国務院による中央経済工作会議(以下、工作会議)で強く打ち出され、特に三中全会では、改革の実行を担保するための改革指導チーム(領導小組)も立ち上げられた。2014年は、三中全会の決定に沿って‘全面深化改革’が進み、中期的に中国がうまく転換期を乗り越えられるかどうかを占う重要な1年目となる。

1.想定される標準シナリオ-7%台前半への着地を模索か?

現在、中国当局はどの程度の経済成長率を望ましいと考えているのか?2013年中の一連の李克強首相発言にその手掛りがある。7月、ある座談会で李首相は、‘合理区間’‘上限’‘下限’という概念を強調し、13年成長率目標7.5%は下限概念で、雇用確保の観点から計算された数値、また物価上昇率3.5%以内は上限概念だと述べるとともに、2020年のGDP規模を10年比で倍にするという政府目標を達成するためには7%成長が‘底線’で、これを割り込むことは許さないと発言した(GDP倍増目標に関しては、これまで明らかになっている2013年に入ってからの成長率等を踏まえると、今後20年まで年平均6.8%程度の成長率で達成できる可能性が大きい)。こうした考え方は9月、李首相が英字誌フィナンシャル・タイムズに自らの名前で寄稿した一文の中でも触れられている。その後も三中全会を控えた11月初めには、成長率を合理区間内に保ち雇用を十分確保すると同時に構造調整を加速させる‘黄金平衡点’を模索し、これを構造転換過程での‘準星’(銃の照準)にすべき、現在1%の成長率で130-150万人の雇用を創出できるので、1千万人の雇用を創出し失業率を4%程度に安定的に維持するためには7.2%成長で十分、成長速度は7.5%の高速から7%強への中高速レンジに入ったと、成長率の目途を下げる発言を繰り返している。

2014年の成長率目標は既に12月の工作会議で議論され、正式には来年3月頃に開催される全人代で決定されるが、上記のような一連の発言から推測すると、高くて13年目標と同じ7.5%、場合によっては7%程度と手堅く設定し、7%台前半から半ばぐらいの着地を目指す可能性が高い。工作会議の前後には、中国内の学者や政府関係者の成長率目標に関する見解が多く伝えられたが、直前の党政治局会議で現在の‘穏中求進’(穏健なマクロ政策、穏健な成長率と物価水準を維持しつつ、構造改革を進める)方針を堅持することが確認された中で、目標を7.5%に設定すべきか、または7%に抑えるべきか、見解は大きく分かれている(12月9日付経済参考報、12日付第一財経日報等)。何れにせよ、以前の8%成長を死守する‘保八’の姿勢は過去のものだ。中国経済の潜在成長率については中国内でも様々な議論があるが、高齢化の進展に伴う生産労働人口の低下や農村余剰労働力の縮小(ルイス転換点の到来)から、中国経済の潜在成長率自体、以前の10%前後から7%台へと大きく低下してきているとするのが大方の見方だ(12月3日付財経網等)。歴史的に、三中全会の翌年は、おそらく新政権の基盤が安定化し一定の構造改革措置が採られる結果、成長率が鈍化するという政治的景気サイクルが見て取れる点にも注意する必要がある。

(*)強気の見方をとる代表格は、世界銀行前チーフエコノミストの林毅夫北京大学中国経済研究中心教授で、中国経済は今後20年間なお8%の潜在成長率を有するとし、2014年についても8%成長が十分可能としているが、これは今のところ最も楽観的な予測であるとされている。潜在成長率をどう見るかの大きな分かれ目は、全要素生産性(TFP)の伸びを今後どの程度と見るかによっており、林教授の場合、過去の日本、韓国等が先進国に移行する過程で達成した高いTFP伸びと、中国がなお‘後発優勢’(後発の優位)状態にあって、技術革新や産業高度化を模倣によって低コストで実現しやすい点を重視している。これに対し慎重な見方をとる側として、例えば発展研究中心劉世錦副主任は、消費、特にサービス産業主導の成長に移行していくとTFPの大きな伸びは見込めなくなってくること、‘後発優勢’の時期は過ぎつつある点を重視している(12月15日付世界日報、8月12日付人民網等)。

三中全会を起点として見た経済成長率

2.当面のリスク要因となるディレンマ

三中全会でうたわれた各分野にわたる改革が進むと同時に、7%台の成長率が維持されることが望ましいシナリオだが、いくつか当面のリスク要因も考えておく必要がある。第一は、2012年半ば以降、騰勢傾向が止まっていない住宅価格である。庶民の不満は増幅しており、これを抑えるため金融引締め強化に動かざるを得なくなると、金利が上昇し資金流入が加速、人民元相場が一段高となり1ドル‘5元時代’が到来する可能性もある。珠江デルタの中小貿易企業を対象としたある調査では、8割近くの企業が人民元上昇を輸出に影響を与える最も重要な要因と回答、20%の企業で人民元上昇によって契約キャンセルを経験している等、2013年中の急激な人民元上昇の影響はすでに懸念され始めている。三中全会後の人民銀行総裁補足説明では「基本的に常態的市場介入を止め、市場に基づいた双方向の変動を促す」方針が示された。正しい方向だが、当面これを着実に実施しようとすればするほど、人民元上昇は加速するおそれがあるというディレンマがある。

第二は‘影子銀行’(シャドーバンキング)への対応だ。2008年の大型景気対策後、影子銀行が急拡大したが、これがよくも悪くもリーマン・ショック後の中国経済を支えてきた。2013年央、多くのマクロ景気指標が好転したが、これも理財商品や信託商品等が再び急増したタイミングと一致している。影子銀行を抑え適切な管理監督の下に置いていくことは、引き続き金融行政の重要な課題だが、ここでも適正化を進めようとすればするほど、当面の景気には負の影響が出るおそれがあるというディレンマを抱える。

第三は、地方政府の無謀な‘城鎮化’(都市化)の推進によって生じている地方債務の積み上がりだ。工作会議でも、地方債務問題は来年の最重要政策課題のひとつと位置付けられた。日本の会計検査院にあたる審計署が8月から調査を行っているが、結果の公表が遅れており、中央政府が予想していた規模を大きく超えているためではないかとの憶測が出回っている。これまで債務総額は15-18兆元、場合によっては20兆元近く(うち地方融資平台を通じる債務が約半分の8-9兆元)と見られていたが、20兆元を超えて2012年GDP比50%近くの規模になっているのではないかとの憶測が出始めている(12月19日付Wind咨询)。また中国社会科学院が12月に発表した「中国国家資産負債表2013」では、中央と地方を合わせた公的債務総額は2012年27.7兆元で(GDP比53%)、うち地方分は19.94兆元とされている(12月23日付中国証券網)。何れにせよかなりの規模に膨らんでいることは間違いなく、またここに影子銀行から大量の資金が流れ込んでいることから、これを最大のリスク要因と見る向きも多い。ただこれについては、他方で地方政府はその傘下にある国有企業の資産だけでも債務のほぼ倍にあたる約38兆元を有するとの推計もあり(ANZ銀行調査)、全体として信用リスクを過大に懸念する必要はないだろうが、一時的、あるいは地域的に流動性リスクが発生するリスクは考えておくべきだろう。

第四は、深刻化する環境問題への対応だ。環境対策の実効を挙げるため、習政権は就任以来、成長率一辺倒だった役人の評価基準を変更し、環境保全面での取り組みも重視する方針を打ち出しており、そうした方針は三中全会の決定文書、その後の党政治局会議でも再確認された。質の高い持続的成長へと転換していくためには不可欠だが、逆に役人が実績作りのため企業活動に過剰介入し支障が生じているという不満の声が企業側から伝わってきており、短期的に必要以上に成長を制約する要因になりかねないというディレンマがある。

第五は、外部環境要因だ。日米欧の先進経済の回復ないしは堅調維持が期待できることから、基本的に中国にとって外部環境は悪くないだろう。ただし二つのリスクがある。第一は、米国の量的緩和政策(QE)縮小が人民元相場のかく乱要因となるおそれがある。一義的にはQE縮小による資金流出が人民元相場上昇圧力を緩和することが考えられるが、2013年の動向を見ると、むしろ人民元が新興国通貨の中でのリスク回避先と見なされて独歩高となる可能性もあり、そうなると、上記第一のリスクを増幅させることになる。(引用2013年12月6日コラム2013年人民元相場、回顧と展望

第二に、資源輸出先として中国市場に大きく依存してきた豪州やブラジル等の資源国は、米国のQE縮小に加え中国経済の減速からも影響を受けることになる。さらに先進経済も、中国経済が大きく減速した場合、一定の影響は免れ得ない。中国経済が世界第二位の大きな規模になっていることから、中国にとっての外部環境が中国経済自体のパフォーマンスによって左右されるという構図になっており、中国経済減速の局面では、これが中国にとってディレンマとなって現れることとなる。

主要70都市新築商品住宅価格

2013年人民元対米ドル相場
(資料)ブルームバーグ報道より作成

3.困難が予想される中期的課題の克服

中期的な課題、リスクも考えておく必要がある。第一は政治的リスクだ。三中全会の決定では「市場機能に決定的役割を与える」とされたが、他方で「公有制を主体とする基本的経済制度を堅持」するともしており、政権内での改革に対する温度差、意見の不一致が垣間見える中、特に国有企業改革や金利を含む金融自由化の面でどこまで改革が貫徹されるかどうかは、既得権益との関係で不透明だ。三中全会で李首相の存在が見えなかった点も気にかかる材料だ。

第二は、格差の拡大に伴う社会不安要因の増大だ。中国のある専門家の推計では、2011年の‘灰色収入’(表に出ず把握されていない収入)は6.2兆元、GDPの12%にまで増加しており、その多くは富裕層に帰属している。その結果、都市部の所得上位10%の平均収入は下位10%の20.9倍と、公式統計の8.6倍を大きく上回る。政府は都市・農村一元化政策を格差縮小の切り札にしようとしているが、戸籍改革や土地制度改革は三中全会で緒についたばかりで、全面的改革にはなお相当の時間がかかろう。また庶民の格差に対する怒りが大きい背景には、格差を助長している灰色収入が腐敗・汚職と関係している場合が多いためで、これにどの程度切り込んでいけるのかという問題がある。さらにこれまでは、高成長によって絶対的貧困が解消されてきた面があるが、成長率が落ちてくると、限られたパイの奪い合いとなって、相対的貧困への不満がより先鋭化するおそれがある。

第三は、高齢化の急速な進展だ。三中全会でようやく、夫婦どちらかが一人っ子の場合、二人目の出産を認める‘単独二(両)孩’方針が示された(12月の全人代常務委員会で関係文書が了承され、今後各地域が主体的に準備。したがって実施時期について統一的なスケジュールはないが、国家衛生計画生育委員会によると、早ければ、いくつかの省や市で来年第一四半期にも実施される見込み、12月24日付第一財経日報)。もちろん高齢化の速度を多少緩和することにはなろうが、その効果は限定的との見方が多い。中国人口学者の推計では、毎年これによって増える人口はせいぜい100-200万人で、300万人を超える可能性は極めて小さい。(11月26日付中国社会科学院人口与労働経済学網)。出生率に影響する要因は複雑多岐で人口政策だけによるものではなく、そもそも中国でも若い層には、多くの子供を望まないという意識変化が見られる。仮に出生率が少し上がっても、その効果が労働力市場に現れるには相当の時間を要する。2010年の高齢化比率(65歳以上人口比率)は8.9%で、これが2030年24.1%,2050年34.1%,2100年39.6%にまで上昇すると予測されていたが、単独二孩が実施されることによって、各々の時点で23.8%、32.8%、34.3%と、2100年に至ってようやく5%程度高齢化が抑えられるとの予測である(11月18日付人民網)。‘未富先老’‘未備先老’、豊かになる前、準備が整う前の高齢化が、当面中国に大きな難問を突きつけている状況に変わりはない。

(※)本稿は、雑誌週刊エコノミスト(12月24日特大号)に掲載した記事を、その後のデータや情報等を踏まえ、加筆修正したものである。

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