デカップリング論の再来とその本質

2013年11月26日

2013年10月、IMFは世界経済見通しを下方修正した(※1)。下方修正の主因は新興国の成長見通しの大幅な下方修正である。他方で米国を中心として先進国は順調な景気回復・成長を維持すると見込まれており、こうした先進国と新興国のパフォーマンスの差異から、いわゆる「デカップリング論」的な評価が一部で再浮上し始めている。

以前に「デカップリング論」が隆盛したのは07-09年頃であり、当時は先進国不調、新興国好調という、現在とは逆の形で景気の方向感の差異が確認された。しかし当時も盛んに指摘されたことであるが、こうした先進国と新興国の景気循環のずれは、両者の間にある経済の相互関係が薄まっている結果では決してない。むしろ先進国と新興国の間に存在する強力なリンケージの帰結である。そしてこの構図は現在も変わらない。乱暴な言い方をしてしまえば、前回は「先進国経済が不調だからこそ新興国経済が好調」だったわけであり、今回は「先進国経済が好調だからこそ新興国経済が不調」なのである。

この一見逆説的に見える現象を整理しよう。下記図表のように、世界経済の景気循環は4つの局面に分解して捉えることができる。議論の基点として、先進国・新興国ともに安定的に成長している局面を第1局面と定義する。この第1局面から、先進国経済が減速に向かうケースを考える。この減速の要因はさまざまであり、戦争などの外的ショックもあれば、景気過熱を抑制するために高水準に設定された政策金利によるものもあるが、リーマンショックのように過去の緩和的な金融政策の結果として発生したバブル経済の崩壊によるものもある。

先進国経済の減速は、世界経済の景気循環を第2局面へと移行させる。この局面において、先進国では経済の立て直しを企図して緩和的な金融政策が採用される。しかし景気減速により期待収益率が低下する中、金融市場に供給された流動性は先進国には還流しにくい。代わりに高い利回りを求めて新興国への資金流入が加速する。この資金流入は新興国通貨に対して増価圧力をもたらすが、これに対して新興国の通貨当局は、為替市場の安定や自国産業の保護を目的として自国通貨売り介入で対応する。結果として先進国からの資金流入と非不胎化介入の両建てで、新興国における金融環境はきわめて緩和的となる。このことが、前回(07-09年)にも見られたような「先進国経済が不調な中で新興国経済は好調」という一見デカップリング的な現象が発生する原因である。

この第2局面を経て先進国経済の減速は収束し、世界経済の循環は第3局面に移行する。先進国経済の回復は、緩和的な金融政策や先進国通貨の実質的減価、ストック調整など先進国由来の要因に加え、新興国経済加速の波及効果や、介入により膨張した新興国の外貨準備が先進国の国債に還流したことによる長期金利の低下など、新興国由来の要因によりもたらされる。この局面に至って新興国経済は過熱し、広義のインフレーションの抑制等を目的として金融引締めを開始する新興国が現れ始める。しかし先進国の金融政策が緩和的な中での金融引締めはイールド格差を拡大させ先進国から新興国への資金流入を助長するため、引締めの効果は減殺される。

新興国経済の減速は、むしろ先進国の金融引締めによって本格化する。先進国経済が加速に転じ、金融政策が引締め方向に転換する第4局面に入ると、先進国における期待収益率が上昇し、新興国への資金流入が細る。これは景気過熱に伴う経常収支の悪化と相俟って新興国通貨に対して減価圧力をもたらし、対外債務負担の実質的拡大とインフレーションの加速を抑制するために新興国の通貨当局は自国通貨買い介入を実施する。結果として第2局面とは正反対に、新興国における金融環境は大きく引締めへと転換することになる。このメカニズムを通じて今般発生しているような「先進国経済が好調な中で新興国経済は不調」というデカップリング的な現象が発生する。今回新興国経済の減速の端緒となったのは、13年5月の米国議会証言においてバーナンキFRB議長がQE3による資産買入れ規模の縮小に言及したことであり、それを受けた米国国債金利の急騰であった。

以上のように、先進国と新興国の間で見られる景気循環局面の差異は、両者の金融面における強いリンケージにより生じてきた。これを踏まえながら今後を展望すると、先進国の好調と新興国の不調は、数年間という単位で構造的に発現していく蓋然性が高い。FRBが金融市場に配慮する姿勢を示していることやイエレン次期議長がハト派とみられることなど、短期的には先進国(米国)の金融引締めに伴う新興国経済の減速懸念は後退している。しかし米国をはじめ先進国経済が順調に拡大へ向かうとの見通しに立てば、遅かれ早かれ先進国の金融政策は転換に向かい、世界経済の景気循環は第4局面の色彩を強めていくだろう。そしてこの局面は、再び先進国経済が成熟・安定し、第1局面へと回帰するまで継続するとみられる。

最後に余談だが、筆者は直近の第2・第3局面に当たる07-11年にかけて新興国経済・市場の分析を担当していた。今振り返ってみると、新興国に対する期待が高まりやすい幸運な時期に恵まれたと思う。

参考文献
小林俊介「QE3縮小後の金利・為替・世界経済(前編)-シミュレーションに基づく定量的分析」大和総研、経済社会研究班レポートNo.15-1、2013年9月9日。
小林俊介「QE3縮小後の金利・為替・世界経済(後編)-グローバルマネーフローを中心とした定性的検証」大和総研、経済社会研究班レポートNo.15-2、2013年9月9日。
(※1)出所: World Economic Outlook: Transitions and Tensions, October 2013

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お気に入りへ登録

この記事を「お気に入りレポート」に登録しておくことができます。

このレポートのURLを転送する

  • @

執筆者紹介

最新コラム