消費税率引き上げに向けた備え

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2013年10月07日

  • 大川 穣

10月1日に消費税率8%への引き上げが正式に表明された。これにより企業の対応はいよいよ本格化する。企業内で実務を担当されている方々にとっては、この先いかに混乱なく業務を捌いていくかに関心が移っていることだろう。

読者の皆様の中には、平成9年に施行された消費税率3%から5%への引き上げにより、当時実務対応に追われた方も多かったのではないだろうか。

さすがに15年が経過すると、事業規模の拡大によりグループの取引が複雑化していることや人材の移り変わりにより当時の状況を知る方が少なくなっていることから、改めて実務を巡る問題点に備え始めている会社も多いと思われる。

新税率が適用されるのは、施行日である来年4月1日以降に取引が完了するモノの販売購入やサービスの提供など、ほとんどの取引が対象となる。したがって、施行日前までに締結した契約に基づき行われた取引であっても、施行日以降に取引が完了するケースでは、基本的には、新税率の適用を受けることとなる。

増税を意識し、消費税の取り扱いについて契約書のなかで適切な記載方法をしておかないと、売上側では消費税の増税分を取引先より受領することができず、実質的な値引きとなったり、取引先とのトラブルが発生することも考えられる。

締結済みの契約書の中に、「100万円(消費税込み)」などのように、本体価格と消費税が区分されていない契約書はないだろうか。税率引き上げ前の契約当時、消費税率について5%を前提として価格を決定していた場合、新税率の適用により、引き上げられる消費税3%相当の金額が、実質的には売上側の値引きとなってしまうかもしれない。例えば、「本体価格」と「消費税額」を明記したり、「別途消費税を徴収する」などの文言を記載しておく方法が考えられる。商社などのように、1日の取引金額が多額に上るような業種にとっては影響が大きいはずである。

また、契約時点において、取引の完了時期が明確でないケースはないだろうか。この場合には、「消費税については、完了日において適用される消費税率により計算する」といった内容を明記することも考えられる。

さらに、事務所の賃貸借契約のように継続的な取引が見込まれるものについては、2015年に10%への税率引き上げが実現することを視野に入れ、予め前記のような記載とすることも事前の準備として検討されてみたらいいかもしれない。

いずれの場合も、自社の法務部門での検討に加え、税理士や弁護士などの専門家への確認は欠かせないだろう。また、取引当事者間の契約である以上、見積りの段階から改正に関する取り扱いを契約相手方に明らかにし、合意を得る必要はでてくる。ビジネス慣行上、後になってから追加で3%の消費税相当を受領しようとしても、応じてもらうことは難しいと思われる。

消費税率変更の実務は、管理部門を中心に議論されることが多い。ただ、実際の取引や契約に関する交渉を行うのは、営業部門の従業員であり、請求書の作成から帳簿に落とし込むまでの処理やこれらの取引を管理するのは、営業事務部門の従業員であったりする。来年4月1日の施行日近くともなれば、業種によっては駆け込み需要が発生したり、決算が重なったりと、全社的に平常月とは異なった忙しさになるだろう。会社の備えとして、管理部門で取り組めることのほか、グループ会社全体で取り組まなければならないこと、外部に依頼が必要なことなどの役割を明確にした上で、部門間の連携を図り計画的な実行で乗り切ってほしい。

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