「正しい増税」と「間違った増税」

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2013年09月19日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

消費税増税に関する人々の関心はやはり強い。税率引上げの幅と日付を明確にした法律は、国権の最高機関において両院とも約8割の賛成票で成立し、2012年8月に公布・施行されている。にもかかわらず、税率引上げの是非や方策について、依然として世論は万別である。先月下旬に内閣府が開催した「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」では国民各層から幅広く意見を聴取したというが、増税を決めた後にそうした会合がもたれること自体、憲法が定める租税法律主義の意味を分からなくさせる。

もちろん、今回の税制抜本改革法には附則第18条がある。特にその第3項は「この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」旨を規定している(条文は一部省略)。

経済に関するこうした弾力条項を置くことは、増税の必要性と経済状況との両方に目配りしている姿勢を人々に示すという意味でよくできた工夫である。経済状況の好転を確認し「所要の措置を講ずる」ことを、国会は政府に対して求めている。今回の弾力条項には定量的な基準がない点で議論の混乱は予想されたところだが、政府は法律に従って経済状況を点検すればよいだろう。

増税はデフレ脱却を待つべきという議論があるが、例えば日本銀行は法律通りの増税実施を前提にデフレ脱却が可能だと述べている。景気が循環的に成熟し実際にデフレ脱却を遂げた局面での増税は、それこそ景気後退のきっかけとなりかねない。必要な増税であるならば、デフレ脱却が見通される中で実施するのが正しい増税というものだろう。増税を規定する法律が施行されて以降、ほとんど全ての経済指標は改善をみせており、弾力条項が想定する負の「激変」は生じていない。上記点検会合で7割超が増税を是認し、予定変更の主張が約1割にとどまったのも当然である。

気になるのは2014年度の3%ptの税率引上げの際、2%pt分を民間に返す(5兆円規模の景気対策を行う)という方針が出てきていることだ。論点は二つあり、第一は予定されている社会保障関連の支出拡大の内容と規模である。いわゆる簡素な給付措置をはじめとして一体改革論議で目白押しになっている低所得者対策はどうなるのか。低所得者対策の対象者や手法を吟味なく広げてしまっては、社会保障制度の持続性は回復しないだろう。

第二の論点は、増税に堪えられる経済環境を維持するという名目で社会保障以外(例えば公共事業など)の歳出を必要以上に拡大させてしまう可能性である。消費税増税による税収は全額が社会保障に充てられると説明する一方で、財政全体に多少の余裕が生まれることを良いことに、地域の所得対策として政府支出を操作することには慎重であるべきではないか。ひとたび増やした支出は政治的に削減が難しくなり、産業構造の変革を妨げて成長戦略とも矛盾してくるリスクがある。

増税が正しいか間違っているかの議論は、増税が景気へどのような影響を与えるかという問題から、税収の使途が正しいかという問題に移ってきた。そもそも増税の一部を民間に還元するという発想ではなく、税収はすべて国民の幸福のために支出されなければならない。消費税増税への強い関心が、支出の中身が重要という当たり前のことを再認識させる契機となることを期待したい。

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鈴木 準
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