中国'影の銀行'への関与強める資産管理会社

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2013年08月30日

  • 金森 俊樹

中国ではかつて1990年代後半から2000年代初、国有商業銀行の不良債権が増加し、これを処理するため、工商銀行、建設銀行、中国銀行、農業銀行の4大商業銀行各々に対応して、4つの資産管理公司(Asset Management Company、AMC)が設立され、そこに不良債権を移管して、AMCが受ける人民銀行の融資や、AMCが発行する政府保証債券(ほとんど商業銀行が購入)、さらには不良資産の国際競争入札(先進国の投資銀行も参加)によって調達された資金で、その回収が図られた歴史がある。総額約1.4兆元の不良債権が移管され、AMCはそのうち、2006年までに約21%を現金回収したとされている(6月18日付上海経済評論、その後の回収率については情報がない)。最近中国で、シャドーバンキング‘影の銀行’(2013年7月1日リサーチ「中国のシャドーバンキング」)のリスクが注目されている背景には、地方債務、とりわけ地方融資平台債務が大量に不良債権化するのではないかとの懸念があることから、改めてAMCへの関心が高まっているように見受けられる。

(組織転換を図り、高収益を記録するAMC)
AMCは元来、設立された時の条例によって、その存続期間は10年間と限られていたこともあり、近年、不良債権処理のための国有の政策的金融組織という当初の形態から、商業的な民間金融組織への転換が図られつつある。すでに華融と信達の二つのAMCは株式会社形態へ移行しており、何れも上場を検討中と伝えられる。株式会社形態にはまだ移行していない東方、長城も含め、4つのAMCは何れも、証券、保険、リース等の幅広い金融取引のライセンスを取得しており、それを強みとして、総合金融サービス会社のような方向を模索している。例えば、本年3月の両会(全人代・政治協商会議)に出席した華融董事長(全人代代表でもある)は、「金融資産管理会社とは不良資産処理会社のことだという古い観念は捨て去るべきで、将来的にAMCは、資産処理、資産経営、資産管理、財富(財産・富)管理を4大機能として具備すべきだ」とし、「不良金融資産のみならず、国有企業の保有資産、病院や基礎インフラ施設、保障性住宅等の政府保有資産、軍関係の資産、そして一般国民の財産等がすべて対象資産となる」と述べている(3月15日付華融消息)。2009年頃、市場関係者の間で、各AMCはすでに回収可能な債権は回収してしまっているので、残っている債権の回収は難しく、何れ銀行が保有しているAMC発行債券が不良資産化するのではないかとのリスクが指摘されていたようである。しかしその後、2008年に打ち出された4兆元の大型景気対策によって多くのインフラ再開発事業が活発化し、不動産市況も高騰したことから、2011-12年は、むしろ「黄金時期」を迎えた。実際、4大AMCが発表している2012年の収益は、総額376億元と前年から倍増している。最大は信達の136億元、次いで華融120億元、東方、長城が各々60億元ずつで、特に華融と東方の伸びが著しい(2月12日付新華網北京)。

(AMCと‘影の銀行’)
AMCと不動産開発事業や‘影の銀行’との関係はどうなっているのか?詳細は不明だが、伝えられるところでは、例えば、不良債権化した信託商品を買い取る「不動産ファンド」(傘下にある信託会社や投資会社等が組成)へ出資をし、またその管理運営者になる、信託会社の株の一部を買い取り、信託会社はそれによって得た資金で、自らが投資家に販売した信託商品の償還を行う(言い換えれば、AMCが信託資産の償還を肩代わりすることによって、信託会社は不動産投資から撤退する)、さらに昨年第4四半期頃からは、AMCが直接不動産開発業者らに融資を提供するといった事例も出てきている模様だ。融資を受けた企業は、これによって得た資金で、他の銀行や信託会社から受けていた委託融資や信託融資の返済に充てており、AMCがこれら企業の新たな‘影の銀行’となっている。AMCが法令上、直接企業に融資できるのかどうか議論があるようだが、直接融資はいずれなお少額で、主流は、企業がその受けている委託融資や信託融資を返済する際に、それを助けるためにAMCが不良債権を引き継ぎ、新たな債権者になるという形態である(以上、7月12日付金融界論壇)。AMCの資金源は、資本金と人民元債オフショア市場や国内金融市場での金融債券の発行で、資金調達コストは運用に比し相対的にかなり低い。

AMCは近年高収益を挙げていることから、「ごみを黄金に変える機会を探し求めている」、「砂の中から砂金をすくっている(淘金)」と、その資産管理のノウハウが格段に向上している点が市場で評価されている。また外資投資銀行がAMCへの出資を検討中で、AMCの資金が潤沢になるとのうわさも流れており、規模の程度はともかく今後不良債権が増加してきた場合に、AMCが中核的な役割を果たすことが予想されている(あるいは、すでに一定程度果たしている)ため、不良債権問題はなお比較的落ち着いているとの市場関係者の見方もあるようだ。しかし、近年AMCの収益状況が大きく好転した背景には、収益源の多角化や資産管理のノウハウ向上もあろうが、基本的には、2008年の4兆元の大型景気対策がもたらした「不動産バブル」的状況があろう。したがって、万が一にも「不動産バブル」が破裂し、「ハードランディング」ということになると、AMCだけで膨大な不良債権を処理できるとは思われず、またそもそもAMC自体の経営にも大きな影響を及ぼすことが予想され、楽観はできない。AMCを中核とした処理は、中国として不良債権問題をできるだけ、いわば市場ベースで処理しようと考えているもので、それ自体は望ましいと言えようが、当局としても、ハードランディングを避けるための施策は常に念頭に置かざるを得まい。AMCは、様々な形で不動産業に関与していることから、AMC自身、知らず知らずのうちに、不動産開発業者、不動産に融資している銀行、信託会社、ファンド等が有している不動産リスクを暴き出す存在(中国で言うところの‘兜底者’)となっている。その意味で、‘影の銀行’や不良債権のリスクを見ていく上で、AMCの動向はひとつの有益な材料を提供することになるのではないか。

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