「貯蓄から投資へ」は本格化するか

2013年7月9日

  • 金融調査部 兼 経済調査部 研究員 矢作 大祐

2013年の半分が過ぎた現在も昨年末以降の円安株高傾向を背景に、個人投資家の活発な株式売買は継続している。売買代金ベースで見た場合、個人投資家の売買シェアが大きく上昇しており、「貯蓄から投資へ」に向けた変化の兆しが現れつつあるとも言える。

株式売買代金の増加は、円安・株高だけが背景にあるわけではない。注目されるのは、信用取引における委託保証金(以下、保証金)(※1)の制度変更(2013年1月~)の影響であろう(※2)。従来、信用取引の保証金は返済注文(※3)が約定した場合であっても決済日までは拘束されたが、制度変更によって約定時点で保証金を他の信用取引に利用できるようになった。また、反対売買によって発生した確定利益を反対売買の約定時から保証金に加算できるようになったことや、追加証拠金(いわゆる、追証)が信用取引額の縮小分に応じて解消されるようになったことも今回の変更点である。以上の制度変更によって信用取引をする際のタイムラグが縮小、資金負担も軽減されたことから、利便性が向上したと言える。

この結果、信用取引の利用は進み、委託売買代金に占める個人投資家の信用取引代金のシェアは上昇している。昨今の株式市場の活況を反映して個人投資家の現金取引のシェアも上昇しているものの、信用取引の上昇分の方が大きい(図表参照)。つまり、今回の信用取引制度の変更は、個人投資家の株式売買を増幅、言い換えれば、「貯蓄から投資へ」の流れを促進する効果を有していると言えよう。

ただし、課題もある。株式の売買は活発化したものの、信用取引が保有株式残高に対して与える影響はニュートラルである。つまり、「貯蓄から投資へ」に向けた次のステップとしては、ストック面での「貯蓄から投資へ」が進むかどうかである。その上でキーポイントとなるのは、個人投資家の中でも株式を保有することでインカムゲインを享受する長期投資家といった投資家層の拡大であろう。

投資家層の拡大を促進する方策の一つとして注目されるのは、2014年1月から施行される少額投資非課税制度(以下、NISA)である。NISAは株式等のリスク資産を比較的長い期間保有することを前提とした制度であり、利用が進めば株式保有の増加も見込まれる。信用取引の活発化、NISA利用の拡大が両輪となって個人投資家の投資を促進し、「貯蓄から投資へ」の流れが本格化することが期待されよう。

委託取引に占める個人の信用ー現金シェア
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(注)3市場委託売買代金に占める個人の信用取引売買代金シェアから現金取引売買代金シェアを差し引いて算出。
(出所)東京証券取引所より大和総研作成

(※1)委託保証金とは、信用取引等による売買が成立した場合に差し入れる担保である。
(※2)信用取引における委託保証金の制度変更に関する詳細な解説は、東京証券取引所のウェブサイトを参照のこと。
(※3)いわゆる反対売買のことで、信用買い(売り)の場合は、売却(買戻し)を指す。

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