100兆元を超えた中国の貨幣供給量

2013年4月26日

  • 常務理事 金森 俊樹

2013年3月末の中国の広義マネーサプライ残高(M2、中国では‘広義貨幣供应量余額’と呼ばれており、マネーストックよりマネーサプライが訳語としては近い)が103兆6,100億元(直近レートで約1,600兆円)、対前年同期比15.7%増と、初めて100兆元の大台を突破(破百、超百)したことから、改めて中国国内で、歴史的に高い伸び率を続け高水準となっているマネーサプライが話題になっている。M2の対名目GDP比の歴史的推移を見ると、1990年代半ばに100%を超える転換点を迎えた後、ほぼ一貫して上昇し、2000年代初に150%を超え、12年には188%に達した。13年の実質GDP成長率目標は7.5%、物価上昇率目標は3.5%以内と設定されているので、これを基に名目成長率を仮に11%、M2の伸びを政府目標の13%と置いて計算すると、中国当局は、13年の同比率がM2(109兆7,800億元)/名目GDP(57兆6,400億元)=190%強の水準になることを想定していることになる。直近のM2の伸びやGDP成長率を踏まえると、実際には200%を超える可能性も出てきた。わが国でも、長期にわたる金融緩和下でデフレ状態が続いてきたため、この比率は近年一貫して上昇し、12年は170%以上になっている。今後デフレ脱却に向け、わが国でも、マネーストックと実質成長率や物価との関係がより注目されてくることになろうが、中国でのこうした高水準のマネーサプライをどのように見るべきか?

第一に、短期的に見ると、このところのマネーサプライの急上昇の主たる要因は、銀行融資の増加に加え、海外からの資金流入が昨年第4四半期以降急増していることにある。この傾向は2013年に入ってから特に顕著で、人民銀行統計の「外汇占款」計数を見ると、中国の金融機関(含む人民銀行)が保有する外貨資産は、12年末から13年3月にかけ約1.2兆元増と、12年中の増加額4,946億元を大きく上回っている。これは、内外金利差に目をつけた中国企業の人民元キャリートレード(低金利通貨の外貨を借入れ、高金利通貨の人民元に交換)が外からの資金流入を加速させているもので、これがインフレを抑えるための国内の流動性管理の効果を減殺し、引締めのため金利を引き上げようとすると、内外金利差がさらに拡大し、資金流入を加速させてしまうという政策ジレンマが生じている。マネーサプライが政策当局の制御できないところで大きく増加している背景に外からの資金流入があり、それは、国内金利が市場化されておらず、一種の金融抑圧が生じていることに起因している。

(参考)M2の対名目GDP比率推移
M2の対名目GDP比率推移
(資料)中国人民銀行、国家統計局統計を基に作成

第二に、中長期的にM2の対GDP比率が急激に上昇してきた背景には、高成長の過程でいわゆる金融深化が進んできたという一般的要因の他に、高い成長を達成するために高水準の投資が目指され、そのために必要な資金が銀行融資という形で国有企業、また近年では地方融資平台に流れていったことが大きい。言い換えれば、政府、国有企業、地方政府が密接不可分の関係で、投資主導の高成長を図ってきたという中国のこれまでの成長モデルが高水準のマネーサプライの背後にあり、しかも貨幣供給を増やして投資を増加させても、それほどには実質的な経済成長に繋がらなくなってきていると意味で、投資効率が低下傾向にある。さらに、中国では銀行預金の比重が高く、融資がもっぱら銀行に依存した間接金融中心であることから、信用創造を通じてマネーサプライが増加しやすくなっていることも指摘できよう。IMFの見る金融深化の程度、すなわち債券や株も含めた金融資産総額の対GDP比率は、中国約300%と日米欧の400-500%に比べなお低く、また中国の場合、金融資産の約4分の3は銀行預金の形態だ(3月14日付経済参考報)。人民銀行幹部は、こうした事情を考慮すれば、名目GDPの伸びを超えるマネーサプライの伸びが続いていることをもって、「貨幣を発行し過ぎている(貨幣超発)」ことにならないとしている(4月12日付中国新聞網等)。

第三は、インフレとの関係である。もとより物価が上昇する要因は複雑多岐にわたり、必ずしもマネーサプライが高水準であることが、直ちにインフレに結びつくわけではないだろう。面白いことに、中国の学者や当局者も、日本(マネーストックは増加しているがインフレになっていない)やロシア(日本とは逆のケース)の例を挙げつつこの点を指摘し、中国がこれまで3%程度の物価上昇率の下で10%前後の経済成長率を遂げてきたことは成功と言うべきであると述べている(4月11日付経済参考報、上記中国新聞網等)。しかしながら、債券市場が未発達で投資対象となる金融資産が多様化していないという状況下で、市場に滞留し投資対象を求める過剰流動性が不動産や一部の株式に向く傾向があり、これらの価格高騰を招いていることも否定できない。これはすなわち、住宅や株といった資産を持つ者とそうでない者の所得格差がさらに拡大していることを意味する。中国のシンクタンク胡潤研究院が最近発表した「2013年富裕層投資白書」によると、600万元(約1億円)以上の資産を有する富裕層は280万人(うち1億元以上は6.45万人)、これら富裕層の76%は不動産、65%は株を投資対象としており、さらには最近の傾向として、工芸美術品(およびそれに関連する金融サービス)を好む層が56%と増加している。過剰流動性は、これら資産を容易にバブル化させる危険性を孕んでいる。

マネーサプライ百兆元超えが発表されてから、中国金融当局や多くの金融学者は「貨幣超発論」を排し、もっぱら「破百、超百」がインフレを悪化させるのではないかとの懸念を払拭することに努めている。そうした議論は一定の説得性を有しており、マネーサプライの増加、あるいは百兆元という数値それ自体に、特段の意味があるわけではないだろう。問題はむしろその背後に、①政府、国有企業、地方政府が三位一体となって投資主導で高成長を図るという伝統的成長モデルがあり、かつ投資効率が傾向的に低下していること、②銀行預金・融資が中心で、金利の市場化もこれからという状況で、金融深化、金融市場の成熟という点ではなお発展途上であること(ただしこの点は、近年、必ずしも規制のかかっていないシャドーバンキングの拡大という皮肉な形で、変化の兆しが見られる)(2013年2月1日アジアンインサイト「急拡大する中国のシャドーバンキング」)、③上記②にも関連するが、一般消費者にとって、投資手段が多様化されておらず、公平な投資環境が提供されていないため、マネーサプライ増加が所得格差を拡大させているといった、一連の構造的、制度的問題があることだ。中国のマネーサプライの動向は、そうした観点から注目していく必要がある。

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