中国新国家主席、最初の外遊はロシアの背景

2013年3月29日

  • 常務理事 金森 俊樹

習新国家主席は就任後、最初の外遊先としてロシアを選び、訪ロ中、「現在、中ロ関係は列強の中で最良」と述べたとされる。中国のロシア専門学者からは、同主席が就任後全人代で行った演説で多用した「中国の夢」という文言を引用しつつ、中ロの戦略的協力関係を発展させることは「中国の夢の一部を実現させること」との発言も伝えられる。中ロ関係は「政熱経冷」から「政熱経熱(または不冷)」に変わっていくのか。

ロシアはこれまでの欧州重視から、より東アジアに重点を置く戦略転換を図ろうとしているように見えるが、その背景として概ね次のような点が指摘できる。

  1. (中国が言うところの)「米国の戻ってきたアジア重視政策」への対抗。
  2. シベリア極東地域の空洞化、西部と東部の地域格差拡大。
  3. 中国等、ロシア東部周辺アジア諸国が世界の成長エンジンになっているにもかかわらず、欧州重視のロシアはそうしたアジアの成長に乗れなかったとの認識。

中国から見ても、共に常任理事国、主要新興経済で成長過程にあること、アジア太平洋地域に位置し地縁的に近く文化や価値観で類似するところが大きいので、協力関係の深化は歴史的必然ということになるのかもしれない。

しかし両国の経済関係については、現状、その非対称性が明らかだ。中ロ貿易関係を見ると、ロシアにとって中国は、2012年、ドイツを抜いて最大の貿易相手となったが、中国貿易に占めるロシアの比重は輸出入とも1.5-2.5%程度の低水準で推移したままで、ロシアは中国にとって10-11番目の貿易相手にすぎない。貿易品目では、中国にとってロシアはエネルギーの資源供給国としての位置付けが圧倒的に大きい。石油については、すでに2013年初、東シベリア太平洋石油パイプラインが全線開通し、ロシアから中国への石油供給能力は、年間1,500万トンから3,000万トンへと倍増しているが、今回訪ロにおいて、ロシアの最大の石油企業からの購入を3倍に増加させること(これによって中国はロシアにとっての最大の石油輸出先になる)、また天然ガス分野では、中国石油天然気集団公司(CNPC)が、2018年から年当り380億㎥の供給を受けることで合意したとされる。天然ガスについては、価格面の問題から(輸出価格は対欧州輸出と同一であるべきと主張するロシアに対し、中国は高すぎると主張)、2006年以来話し合いが続けられていたが、ようやく一応の合意を見たということになる。中国の対外直接投資に占める対ロ投資のシェアは2011年1%に満たず、その大半はエネルギー分野への投資である。ロシアは石油生産世界第一位、天然ガス第二位、中国は最大の資源消費国であり、資源分野の協力は双方にとって大きなメリットがあることは間違いない。ロシアは輸出先の多様化を進めることができる一方、中国にとっても資源の長期的安定供給を確保することになる。また極東開発には大量の資金が必要だが、財政的余裕に乏しいロシアは外資、とりわけ中国資本をいかに取り込むかに腐心している。

他方で、資源依存型の経済から脱却しようとするロシア内では、中国にエネルギー・鉱物資源等一次産品を一方的に輸出することで、シベリア極東は経済的に中国の「植民地」になりつつあるのではないか、さらに中国資本は投資先として、ロシアの高速鉄道インフラ建設やエネルギー分野への投資動機は必ずしも大きくなく、むしろロシア企業を低価格で買収しようとしているだけではないかとの警戒もある。米国の「戻ってきたアジア戦略」のターゲットはロシアではなく中国であり、むしろ米国と協調して中国の台頭を抑えるべきではないかとの議論まであるようだ。中国内でもロシアのこうした対中警戒論は十分認識されており、中国側からすれば、これが一層の関係強化、とりわけエネルギー分野での協力の阻害要因になっているということになる。

ロシアには、急成長する中国に対峙する中で、中国脅威論と機会論が混在しているが、中国を最大の鍵となる戦略パートナーと見なしていることは間違いなく、その経済を資源依存と欧州依存というふたつの「依存」から脱却させるためには、好むと好まざるに関わらず、自らのマクロ経済計画、特にシベリア極東地域という経済空間に、中国という強大な隣国を引き込まざるを得まい。他方、中国にとって現状、ロシアはおそらくそれほどの存在ではないのではないか。ただし、米の戻ってきたアジア戦略と自らの台頭による東アジアの緊張化、さらにはロシアのアジア重視戦略への転換が契機となって、ロシアの重要性がこれまでより増していることも間違いないだろう。

中ロ関係は、お互いに、特に米国との関係を念頭に置きつつ、相手を利用しながら自国経済、さらには国際社会でのパワーを強化しようする実利的なもので、そうした観点から、両者の関係が政熱(または冷)経熱(または冷)のどの方向に向かっているのか、そしてそれが日本にとってどういう意味があるか、冷徹に注視していくべきだろう。

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