新たな時代の火力発電

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2012年12月11日

原子力発電所の再稼働が進まない中、火力発電の重要性がますます高まっている。太陽光や風力による発電は化石燃料に頼らずCO2を排出しないというメリットがあるが、発電量が不安定であるので、全体の発電量を安定させるためのバックアップ電源としても火力発電の新たな役割が今後出てくると思われる。しかし、化石燃料への依存はCO2排出量を増やし、世界的な燃料価格の上昇や円安となれば輸入額の大幅な増加を招くことにもなる。そのため、少ない化石燃料でも多くの発電が可能で、しかもCO2排出量をできるだけ抑えられるような火力発電の開発・導入が必要となる。

火力発電の発電効率(投入したエネルギーのうちどれだけ電力としてエネルギーを取り出せたのかを示す割合)は、年々上昇している。発電効率を高めるために、例えばできるだけ高温・高圧の気体を作って高速でタービンを回転させることや、また、発電時に捨てられていたエネルギー(廃熱など)を無駄なく使うといった工夫などが考えられている。

最近、天然ガスが注目されるのは、その発電効率の高さと環境負荷が相対的に小さいことだ。例えば、ガスタービン・コンバインドサイクル発電(GTCC:Gas Turbine Combined Cycle)では、天然ガスを燃焼させて発電機を回し、そこで排出された熱を再利用して作った蒸気でもう一度発電機を回すという方法をとる。その結果、通常の平均的な火力の発電効率は40%前後とされるが(※1)、2013年秋に運用開始が予定されている最新型のGTCCの発電効率では54%となっている(※2)。現在、国家プロジェクトとして開発中の次世代GTCCになると、発電効率は57%にまで高められるという。

一方、CO2排出量が多いとされる石炭でも技術開発が進んでいる。石炭火力でも高温・高圧の蒸気に耐えられる発電設備を開発するだけでなく、最近では石炭を蒸し焼きにしてガス化することで、GTCCの方式を使って無駄なくエネルギーを利用し、発電効率を46~48%にまで引き上げる石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)が注目されている。実際、2013年春には25万kWのIGCCの商用運転が予定されている(※3)。発電効率の上昇で使用する化石燃料が少なくなるので、同じ発電量でも2割程度のCO2排出量の削減が期待されることや、水分量が多い低品位炭の利用が容易になるといった、資源の有効活用の面でもメリットが大きいといわれている。

さらに、以上のようなGTCCやIGCCに燃料電池を組み合わせることで、さらなる火力発電の高効率化・低炭素化を図る試みも行われており、日本のこうした火力発電の技術は世界のトップレベルにあるとされる。再生可能エネルギーによる発電だけでなく、今後は火力発電の技術をさらに磨くことで、化石燃料の有効活用と環境負荷の軽減といった世界的な課題の解決に貢献していくべきだろう。もちろん、それは日本の成長にも大きく寄与することになる。

(※1)電気事業連合会ウェブサイトにあるFEPC INFOBASE2011のデータより。
(※2)関西電力(株)姫路第二発電所向けの1号機(48.65万kW)。発電効率は送電端ベース。以後、2015年10月までに順次5基(48.65万kW×5)のGTCCが導入される予定。
(※3)(株)クリーンコールパワー研究所が所有する実証機。2013年4月に東京電力(株)と東北電力(株)が出資する常磐共同火力(株)勿来発電所に移管され、世界初の商用運転を始める予定。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄