新政権は早急に税制改正を

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2012年12月05日

例年、11月から12月にかけては、政府、与党の税制調査会で、次年度の税制改正に向けた議論が精力的に行われる。しかし、2012年は、11月16日に衆議院が解散されたので、その議論はストップしている。過去、12月に総選挙が行われた例を見てみると、1983年12月18日に行われた第37回衆議院議員総選挙の後では、翌1984年の1月27日に昭和59年度税制改正の要綱が閣議決定されている。ただ、このときは自民党政権が選挙前後で連続していたため、総選挙後の税制改正の議論もスムーズであったものと思われる。

今般の総選挙後は、どの政党が政権を担うかはわからない。仮に民主党以外の政党が政権を担った場合には、新政権は、この3年間に民主党政権が採用した税制改正のプロセスとは異なる、新たな税制改正プロセスを採用する可能性がある。例えば、自民党政権の時代の税制改正においては、内閣総理大臣の諮問機関としての政府税制調査会は議員ではなく有識者によって構成され、中長期的な視点から税制改正の方向性を提言するのに対し、与党税制調査会が次年度の具体的な税制改正内容及び税率等の詳細を決定するというプロセスを経ていた。

新政権の下においては、決定プロセスが変更されるだけでなく、ゼロベースで税制改正の議論をやり直すということも考えられる。そうなると、税制改正の要綱の決定は、1984年のケースとは異なり、2月以降に遅れる可能性もある。

金融・証券税制についてみると、証券会社、銀行などの金融機関にとっては、いわゆる日本版ISAへの対応が課題となっている。

現在の税法の規定では、2014年1月1日から日本版ISAがスタートすることになっており、口座の申し込み手続は2013年10月から開始することになっている。

一方で、平成25年度税制改正要望として、金融庁は、日本版ISAについて制度の恒久化や現行では3年間で最大3口座開設できるとされているところを、1人1口座に改めることも求めている。

新政権が、これらの要望を受け入れるかは定かではない。仮に実現した場合、投資家は、1つの金融機関に開設した1つの非課税口座のみで取引を行うことになる。このため、各金融機関は顧客の囲い込みのための戦略を早急に検討しなければならないし、日本版ISAの恒久化への対応についても検討しなければならない。

また、金融庁は、「経済金融情勢が急変した場合」には、現在の上場株式等に対する配当、譲渡益の10%税率の延長も求めていた。このため、10%税率が再び延長される可能性もゼロではない。

このように、現時点では様々なケースが想定されるため、金融機関にとって、システム対応なども含めて頭の痛いところではなかろうか。

新政権には、早い時期に来年度の税制改正の骨格を示すことを願う。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬