改めて注目される中国の格差問題

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2012年12月03日

中国で格差問題が改めて注目されている。2012年11月8日から14日まで行われた中国共産党第18回党大会の期間中、胡錦濤前総書記は2020年までに全面的な小康社会(ゆとりのある社会)を実現するための目標として、GDPと都市部および農村部の1人当たり所得を2010年比で2倍にすると発表した一方、急速な経済成長による貧富の格差拡大の是正を強調した。さらに米国の調査機関であるPew Research Centerの報告によれば、2012年に中国で富裕層と貧困層の格差が非常に大きな問題であると答えた人の割合は48%に達し、2008年の41%から増加した。また、同報告書では81%の人々がこの数年で富裕層はさらに富み、貧困層はさらに貧しくなったと回答している。

格差の中でも特に問題となるのが都市・農村間格差である。国家統計局によると、都市・農村間の所得格差は1978年の2.57倍から1983年には1.82倍まで急速に縮小した。これには、1980年代前半、農村部で「農業生産責任制」(割り当てられた量を政府へ販売し、かつ農業税を払えば余剰生産物を自由市場で販売することを認められる制度)の導入によって農家は生産量を増大させ、政府も農産物の買い入れ価格を引き上げた結果、農村部の所得が急速に増加した事情がある。しかしその後、沿海部の都市を中心に工業化が進んだことで、所得格差は急激に拡大し、2009年には3.33倍まで達した(2011年時点では3.13倍)。ILO(国際労働機関)によれば多くの国では都市・農村間の所得格差は1.6倍以内とされ、国際的に見ても中国の都市・農村間格差は極めて大きい。加えて、2011年時点の家電保有率についても、都市部の所得下位5%の家庭は100世帯当たり冷蔵庫を76.6台、エアコンを37.2台保有しているのに対し、農村部は平均で冷蔵庫は61.5台、エアコンは22.6台のみ保有している。

加えて、農村間の所得格差も重要である。国家統計局によれば、2011年、省・直轄市・自治区の中で都市部、農村部の両方で1人当たりの所得が最も高い地域は上海市、最も低い地域は甘粛省であった。しかし、これらの地区間の所得格差は都市部・農村部ごとに異なっており、都市部の所得格差は2.4倍にすぎない一方、農村部の格差は4.1倍にのぼった。農村部の格差が都市部以上に大きい理由として、上海などの都市化率が高い大都市では、近隣の農村部に住む人々も労働者として働き、賃金を得られる機会が多いことが考えられる。実際、北京の華中師範大学中国農村研究院が発表した「中国農民経済状況報告書」によれば、所得上位20%の農家のうち賃金所得がある「務工農戸」の割合は88.9%で、農業所得に頼って生計を立てる「務農農戸」の割合は11.1%であった一方、所得下位20%の農家については、「務工農戸」の割合は17.5%、「務農農戸」の割合は82.5%を占める結果となった。

今後中国政府は所得が低い農村部を中心に支援するため、[1]最低賃金を引き上げる、[2]農産物の買い入れ価格を引き上げる、[3]都市化を加速する、などの政策をさらに推進すると考えられる。[1]について、農村部からの都市部への出稼ぎ労働者である農民工は、都市住民と比較して賃金の低い単純労働者が多いため、最低賃金引き上げにより、農村部への仕送り額の増加が期待される。そして、[3]の都市化が進展すれば、農村部の住民が就業して賃金を得る機会が増加することに加えて、農産物の生産減少および需要増加によって価格が上昇する結果、農村部の所得が増加すると見込まれる。中国政府は輸出・投資主導経済から消費主導経済への転換を目指しており、消費の源泉となる所得を増加させる効果がある政策を持続すると考えられよう。

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新田 尭之
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 新田 尭之