金融エリート~凋落か復権か

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2012年10月11日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰
IMF・世銀年次総会が東京で開催されている。これに合わせて、G7財務相・中央銀行総裁会議や、あるいは民間主催の金融関連のカンファレンスが、都心のあちこちで開かれている。世界から2万人もの参加者や報道関係者が訪れる予定といい、まさに金融業界の一大イベントである。東京でのIMF総会開催は1964年以来48年ぶりというが、東京の都市インフラの充実ぶりを参加者たちにアピールできれば、国際金融センター・東京の復権につながるのでは、という期待も持てるかもしれない。

ところで、東京に集結している「金融エリート」—すなわち世界の金融資本を動かしている人々—の評判は昨今の全世界的デレバレッジの中にあって、地に堕ちているようにも見受けられる。2000年代初頭において自己目的化した金融資本の膨張が、サブプライム問題を引き起こし、リーマン・ショックとその後の欧州債務危機へとつながった。最近では、「LIBOR問題」も表面化し、金融エリートの閉鎖的な世界は、嫌悪の対象にすらなってしまった、と感じる。リーマン・ショックを受けて導入が進む各種の金融規制も、放っておけば一方的に強化が進みかねない。そして、それはデレバレッジをさらに強めて、実体経済の足を引っ張る、というシナリオが容易にできあがる。

デレバレッジと同時に、金融業の収益性は低下し、雇用リストラの話題も、いまだ頻繁に聞かれる。金融業は一方的に規模縮小に向かうのだろうか。もっとも、各国のマクロの労働統計を確認する限りにおいて、その傾向は必ずしも強いものでないことがわかる。金融大国である米国や英国における金融・保険業の従事者は、さすがにリーマン・ショック直後は大幅に減少したものの、2010年初めには減少は一巡し、直近ではむしろ回復傾向にある。

さらに、アジアの金融センターであるシンガポールや香港にいたっては、リーマン・ショック直後も金融・保険業の従事者は、ほとんど減少せず、ショック以前からの増加トレンドを保っている。労働人口全体に占める比率も、両都市では趨勢的に上昇していることが明らかとなっている。つまり、仮に「評判は地に堕ちている」としても、金融業自体の存在感は失われていないし、新興国ではむしろ高まっていると言える。

金融資本は“打たれ強い”のであろうか。過去100年を超える金融資本発展の歴史においても、これらの暴走を押さえ込もうと規制が強められた時期があり、幾度と無く淘汰再編を経てきたものの、決して衰退することはなかった。金融資本は、経済政策・産業政策において力を発揮し、必要性が揺らぐことはなかったのであろう。

今後も、経済成長に寄与する限り、金融資本は凋落を免れるのかもしれない。とはいえ、現下の状況を鑑みれば、いかに透明性を高め、実体経済の発展に貢献し、外部からの信頼を回復させていくかが、金融エリートに与えられている喫緊の課題であることは間違いない。

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保志 泰
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