尖閣・竹島問題で訪日外国人が100万人減少したらどうなる?

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2012年10月02日

尖閣諸島や竹島をめぐる問題から、中国や台湾、韓国との関係が急速に悪化している。中国では9月に反日デモが全国規模で広がりを見せた。足元ではひとまず沈静化したものの、日中国交正常化40周年の記念式典や日中文化交流イベントが中止・延期されるなど、緊迫した状況が続いている。

関係の冷え込んだ状況が改善しなければ、国家間のヒト・モノ・カネの流れが停滞し、いずれの国にとっても不利益な影響をもたらす。すなわち、輸出の減少や自国へ訪れる外国人の減少、海外現地法人の収益悪化や撤退といった経路で景気を悪化させると考えられる。欧米経済の先行きが依然として不透明な中で、アジアの景気はこのところ減速している。外交問題がその傾向をさらに強めないよう、各国政府の冷静な対応が求められる。

経済への影響という点で、日本において特に関心が強いのが訪日外国人の減少であろう。報道によれば、すでに訪日中国人ツアーのキャンセルが相次いでおり、日中間の定期運航の中止を発表した中国航空会社もある。内需低迷で苦戦が続いている国内のサービス産業や小売業にとって、増加傾向が続いてきた訪日外国人の購買力を取り込めないのは大きな懸念材料だ。

4カ国・地域(韓国・中国・台湾・香港)からの訪日外国人が仮に100万人減少した場合、国内消費額がどのような影響を受けるのかを推計してみよう。2012年1-6月の同地域からの訪日外国人は262万人であったため、季節性を無視すれば、100万人というのは年間ベースで約2割の減少に相当する。観光庁「訪日外国人消費動向調査」では、国(地域)ごとに日本訪問中の外国人の平均消費額を発表しているため、そのデータと訪日外国人の減少数を掛け合わせることで、国内消費額の減少分を試算することできる。

下図はその推計結果である。4カ国・地域からの訪日外国人の減少によって、国内消費額は直接的に900億円程度減少するとみられる。さらに、国内消費額の減少が他産業の経済活動を縮小させるといった波及効果も含めれば、日本のGDPを1,200億円程度減少させると推計できる。285兆円(2011年度)という名目個人消費額の規模に比べれば非常に小さいため、訪日外国人数の減少がただちにサービス業や小売業の業況を悪化させることはないだろう。しかし、それらの国・地域との関係悪化が長引けば、こうした影響を無視できなくなる可能性も否定できない。

費目別に注目すると、特に影響を受けるのは「宿泊」、「飲食関係」、「衣料品等」、「化粧品・医薬品等」などである。こうした財・サービスを主に扱っている百貨店やホテル、レストラン、ドラッグストアなどでは、とりわけ収益の悪化につながりやすいとみられる。さらに、これらは労働集約的な業種でもあるため、雇用への影響にも注意を払う必要があろう。

韓国・中国・台湾・香港からの訪日外国人が100万人減少した場合の国内消費への影響
(注1)国内消費減少額は、2012年4-6月における各国(地域)の費目別購入者単価に購入率を掛け、減少訪日外客数を掛け合わせた。
(注2)波及効果は、2005年の産業連関表(108部門)をもとに輸入内生モデルを用いて推計。国内消費が減少した影響が、自部門及び他部門へ波及して付加価値(GDP)を減少させた効果を表している。
(出所)観光庁、日本政府観光局、総務省統計より大和総研作成

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司