景気テコ入れだけでなく、構造転換への対応も待ったなしの中国

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2012年08月22日

中国の2012年4月~6月の実質GDP成長率は7.6%にとどまり、2009年1月~3月の6.6%成長以来の8%割れとなった。こうしたなか、中国政府は、(1)6月1日からの1年間、省エネ家電購入に対する補助金を財政から支給(265億元、約3,300億円)、(2)6月8日に3年半ぶりの利下げに踏み切ったのに続き、7月6日に再利下げを実施し、最優遇貸出金利を大幅に引き下げ、(3)大規模公共プロジェクトの着実な実行とプロジェクトの前倒し認可、などを実施して、景気テコ入れへの取り組みを本格化している。

今回の景気テコ入れ策の恩恵は、大企業、とりわけ「国有」大企業に集中しよう。

最優遇貸出金利の大幅引き下げについて、6月8日と7月6日の利下げにより、最優遇貸出金利は、基準金利の0.9倍(利下げ前)⇒0.8倍⇒0.7倍に引き下げられた。最優遇貸出金利が適用されるのは、農業、インフラ、保障性住宅、戦略的新興産業などの優先分野を担う国有大企業に限定され、中小企業は蚊帳の外に置かれることになる。

家電消費刺激策では、省エネ性能に優れるエアコン、薄型テレビ、冷蔵庫、洗濯機、湯沸し器を生産するメーカーに財政から補助金を支給する。補助金支給対象は、薄型テレビは年間生産台数50万台以上、エアコン、冷蔵庫、洗濯機は同10万台以上の大企業に限定され、中小のメーカーは対象外である(外資系企業も対象なので、恩恵は「国有」大企業に限定はされない)。2008年11月発表の4兆元の景気対策では、政策の恩恵が国有大企業に集中し、同企業が躍進する一方で、民間の中小企業の勢力が後退する「国進民退」問題が先鋭化した。今回の景気テコ入れ策でも同じ問題が発生する懸念が大きいとみている。

もう一つ注意しなければならないのは、短期的な景気減速要因と構造的な成長下押し要因が混在しているのが、今の中国の特徴となっていることであろう。一人っ子政策による少子高齢化が急速に進展する中国では、2013年に生産年齢人口がピークを迎え、2020年~2030年の潜在成長率は5%~6%へ低下するとの見通しが、政府系シンクタンクから出されている。成長の速さを重視する時代は既に終わりを告げ、その質が問われようとしているのである。例えば、足元の輸出減速の主因は、欧州向けを中心とする需要先の景気悪化であるが、より構造的な問題として、近年の労働者不足による賃金の大幅引き上げなどで、労働集約的な産業の競争力が大きく低下していることがあろう。より付加価値の高い、次の柱が育たなければ、中国が貿易赤字に転落する日もそう遠くはあるまい。高成長から中程度の成長に移行する過渡期を迎えるなか、短期的な景気テコ入れ策だけでなく、構造転換への対応は正に待ったなしの課題となろうとしている。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登