日本円・人民元直接取引の開始—ドル基軸体制の補完は進むのか?

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2012年08月09日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
日本円と人民元の直接取引が6月1日から実際に開始された。東京市場における直接取引と上海の為替市場(外国為替取引センター)において人民元-円のマーケットメーカー制度が発足した。

中国はこれまでにもドルを介さないで直接に人民元と他通貨とを交換する直接為替交換市場の成立を促進してきた。これまでには、ロシア・ルーブル、マレーシア・リンギで、すでに直接交換市場が成立している。豪ドルと人民元の直接取引についてもオーストラリアの高官のポジティブな発言が報道されている。豪ドルと人民元との直接取引が始まれば、アジア・太平洋地域における主要通貨の間で元を中心にした直接取引のネットワークが形成される動きが一段と強まることになる。これがドル基軸体制を補完するものに成長する可能性もまったくないとはいえないだろう。

一方、日本側も直接取引の創設に積極的だった。円の国際化を進める好機となってほしい。中国はすでに外貨準備の多様化、金準備の積み増しなど、人民元によるドル基軸体制の補完を狙った系統的な策を打ってきた。日本も円の国際化を図る手をしっかりと打っていくべきだろう。たしかに日本経済の規模は中国の経済規模に抜かれ、しだいに相対的に小さいものになっていく可能性が高い。しかし、経済規模が小さいから国際通貨として通用しないということはない。現に英ポンドはかなりの存在感を持ったままである。日本もASEAN通貨やオーストラリア、ニュージーランドとの通貨の直接交換を進めていけばよいのではないだろうか。もちろんユーロとの直接交換を実現すれば、円の国際化は大きく進むと思われる。

さて円と人民元の直接取引の成果はあがっているだろうか?6月1か月間での、東京市場の円・元の取引高は1日当たり10億元(約125億円)前後であったとされている。これは米ドルと元を交換する香港市場の1割程度である。金融業界では新たな関連サービスが登場するなど、直接取引に商機を見いだす動きも出始めている。6月1日の直接取引の開始後、東京市場の人民元取引量は、ドルを介した従来の取引に比べて大きく伸びたことは事実である。取引への参加者は3メガバンクが中心とされている。取引の活発さにも依存することであるが、最終需要者にとって取引コストは、ドルをいったん介する取引に比べてかなり下がることになるはずである。これが決定的に貿易などの取引を伸ばすことには過度の期待はできないが、金融取引については利便性が大きく高まることは疑いがない。しかし、中国においては、より国際的な資本取引への規制を緩和していく必要があり、これが次の課題となってくるだろう。当面、相互に相互の通貨建ての債券発行を盛んにしていく、すなわち中国企業などによるサムライ債(円建て外債)発行、日本企業などによるパンダ債(人民元建て外債)発行の振興に向けて、現状の実務的な問題などを洗い出していくことも必要だろう。

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