ベトナムの証券市場の発展を阻害する企業情報開示の不十分さ

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2012年07月31日

ベトナムの証券市場の歴史は浅く、ベトナム初の証券取引所であるホーチミン証券取引センター(現在のホーチミン証券取引所)が設立されてから12年ほどしか経過していない。そのため、証券市場整備に関しては問題点も多い。

問題の一つは、IPO(新規株式公開)により株式会社化した非上場企業の情報開示が進んでいないことである。日本では、IPOを行う場合、必ず、証券取引所への上場を伴うが、ベトナムではIPOは単なる株式の売出しであり、証券取引所への上場を必ずしも伴うものではない。その結果ベトナムでは多くの企業がIPOをしたにもかかわらず、上場に伴う情報開示義務を回避するために証券取引所に上場しない傾向がある。そのため、未上場企業の株については、主にオンライン上の株式仲介サイトや証券会社の店頭市場(ベトナムの証券法では証券会社が未上場株式の取引を禁止する規定はない)を通じて取引することが常態化している。

政府はこの事態を受けて、2007年に「公開企業」制度を導入した。具体的には、会社の株式が機関投資家を除く100人以上の投資家に所有され、かつ払い込み済みの設立資本金が100億ドン以上の株式会社などを「公開企業」と定義。そして、公開企業に上場企業と同様に、財務諸表などの情報開示を国家証券委員会へ報告することを義務付けたのである。この結果、非上場企業の情報開示が進み、また情報開示を義務付けられた状態で未上場を続けるメリットが一つ消滅したことで、証券取引所への上場が促進されると期待された。

しかし非上場企業の情報開示は進まず、上場を促す効果は生まれなかった。報道によれば2012年5月25日時点で国家証券委員会に登録する非上場企業は986社であるが情報開示の必要条件を満たしているのは194社にすぎない。例を挙げると民間大手銀行の一つであるサイゴン商業銀行は2010年と2011年第三四半期に財務報告書を提出したのみにとどまっている。結局上場しないメリットは温存されてしまい、2011年7月28、29日に行われた「ASEAN Broker Networking 2011」で発表されたハノイ証券取引所の資料によれば、公開企業の中で、ホーチミン及びハノイ証券取引所に上場している割合は16%にすぎない。

これに対し、ベトナム政府は2012年3月に発表した「ベトナム証券市場開発計画2011年~2020年」の中で「公開企業に対し、資本規模及び公共性に基づいた情報開示の制度を策定する」ことを決定した。実際に、2012年6月から資本金が1,200億ドン以上かつ株主が300人以上の非上場企業に対して、上場企業と同一の情報開示を義務付け、また情報開示義務違反に対する罰金額を5億ドンから20億ドンに増額する制度が施行されている。しかし、結局法律で定められた情報開示義務を回避できる状況を改善しなければ根本的な問題は解決しない。今後は、ベトナム政府は法律に違反した企業に厳格に対処するなど、法律の運用・執行などの制度の運営に一層力を入れることが求められよう。

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新田 尭之
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 新田 尭之