TPPの不平等な参加手続きと日米FTAの必要性

2012年7月11日

  • 調査提言企画室 長谷部正道
我が国の対外経済政策の基本方針としては、「WTOによる基盤的な国際通商ルールの整備・強化とルールに基づく紛争解決を基本としつつも、WTOにおける取組を補完するものとして、地域間或いは二国間におけるFTA/EPAを戦略的かつ柔軟に活用しながら、多層的な対外経済政策を展開していく必要がある。」(※1)との認識のもとに「これまでの姿勢から大きく踏み込み、世界の主要貿易国との間で、世界の潮流からみて遜色のない高いレベルの経済連携を進める。」(※2)というようにFTA/EPA推進の方向に政策的な方針を転換しており筆者も基本的にこの方針を支持するものである。


政府としてはこの方針のもとに精力的にFTA/EPAの交渉の推進に努めているが、何といっても注目されているのが、TPP(Trans-Pacific Partnership Agreement)交渉の行方である。TPPに関する交渉は当初NZ、シンガポール、ブルネイ、チリの4か国で締結されたP4協定を基に米国をはじめとして新たに5か国が加わって現在交渉が鋭意進められている。但し、TPPの目的として、WTOにおける合意に代わるような多くの国に受け入れられやすい国際的に普遍的な自由貿易協定を目指すというのではなく、むしろ米国を中心とした友好国(like-minded countries)が集まって、これらの国に好都合な自由貿易ルールを策定し、他の国が新たに協定に加わることを希望する場合は、現交渉当事国すべての合意を必要とする上に、既に合意されている協定内容をそのまま承諾しなくてはいけないという条件が新規参加国に課されているのが大きな問題であると私は考える。


米国が求める高いレベルでの貿易の自由化を可及的速やかに達成するためには、新たな交渉参加国が加わるたびに協定内容を再交渉していたのではたまらないという米国の立場は、それはそれで実務的には理解できる。しかし、そうであれば、あとから参加する国には既存の協定について、一定の留保をできる権利を認めるとともに、たとえばTPP発効後5年ごとに当該留保や協定自体の見直し協議を協定に後から参加した国にも平等の発言権を与えて行うような民主的なメカニズムの創設が求められる。


貿易交渉にかかわらず、国際交渉の一般原則として、交渉においては交渉当事国が対等の立場で、お互いが得たいものを主張して交渉を行うのが筋である。現交渉当事国9か国の交渉参加への支持を取り付けるために、TPP協定そのものだけではなく、各現交渉当事国との事前交渉でそれぞれの国の要求を受け入れなければTPPに参加できないというのは、世界史上稀にみる非民主的かつ制限的なスキームである。私が上記に提案したようなメカニズムなしに、無条件でTPPというバスに飛び乗ることは、幕末期の不平等な通商航海条約の締結と似ていると後世の人間から評価される可能性も覚悟しなくてはなるまい。


もっともこのような条件は我が国だけでなく、日本と同様に早期交渉参加を求めているカナダやメキシコといったNAFTA諸国にも課されており、両国の交渉参加は先月(6月)に現交渉当事国の全てから認められたが、参加の条件として、既に現交渉当事国が合意した事項のみならず、今後の交渉において、現交渉当事9か国が合意する事項には反対できないという条件を受け入れたとされている。このように現交渉当事国には今後の交渉にあたっても後から参加した国と比べて強固な優先権が与えられているようである。


筆者は先日東京で行われた元米国通商代表の講演を聴く機会があったが、米国政府の目から見れば、こうした条件を付けても、カナダ、メキシコ、日本に対してTPPへの早期参加を認めるのは米国としてはこれらの友好国に対してfavor(恩恵)を与えるものと考えているのであり、第2グループとしては、現交渉当事国でないアジア・ラ米の諸国等の参加を認め、中国などは第3グループとしての参加しか認めないというような考えを表明していた。多くの日本人は、このような話に反発をするのではなく、最初のバスにまだ乗せてもらえるのなら、現交渉当事国における非公開の合意事項の内容すら必ずしも明らかでなくてもカナダやメキシコのようにバスに飛び乗るべきだという意見が多数を占めるであろうことは容易に想像がつくのである。


韓国はこのような状況を避けるために、果敢にも米国との厳しい二国間交渉に臨み、TPPというバスに無条件で飛び乗る代わりに、韓米FTAの締結に成功し、韓国としても苦い自由化要求を受け入れる一方で、米国市場における韓国製品に対する関税の引下げ等の果実もしっかり勝ち取っている。この結果、韓国は米国に対して一定の韓国の利益を確保しただけではなく、NZや豪などのある意味では米国より過激なTPP現交渉当事国の要求を承諾しなくてもよかったという大きな実利を取ったのである。


筆者の知るところ、日本国内には交渉担当者を中心に、米国との二国間交渉にしり込みする見解が強く、また米国国内においても、米国内における日本製品の競争力をさらに強めることにもなりかねない日米FTAの締結に反対である勢力があることも事実であろう。しかしそうではあっても以上に説明したとおり、日本の交渉優先順位としては、非常に不利な条件を受け入れることになりかねないTPPよりも、韓国のように日米FTA交渉の優先順位を上げて、米国との間でしたたかな交渉に臨むべきであろう。さらに対米交渉の交渉ポジションを有利にするためにも、日中韓FTA等の他の交渉も精力的に進め、このような交渉で日本に有利な条件を引き出すような複合的な戦略も必要である。


GATT1条や、日米友好通商航海条約14条に定めるいわゆる「最恵国待遇」の規定は自由貿易の根幹である。日本の経済界がTPP早期加入を求める最大の根拠として挙げている米国等の海外市場における韓国製品との関税率上の不平等取扱い、ひいては日本製品の相対的な国際競争力の低下の問題については、日米両国が既に締結しているこれらの国際条約に定める「最恵国待遇」にかかわる問題として、正々堂々と必要に応じ国際紛争処理手続きを視野に入れながら対処していけばよい事項であり、あわててTPPというバスに飛び乗らなくてはいけない絶対的な理由ではないのである。


(※1)経済産業省『2011年版 不公正貿易報告書』p.486
(※2)「包括的経済連携に関する基本方針」平成22年11月9日 閣議決定

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