テレビは物価動向を見極める上で、かく乱要因?

RSS

2012年06月04日

4月の全国コアCPI(生鮮食品を除く)は前年比+0.2%と3ヶ月連続のプラスとなった。それまで、ゼロ%付近のマイナス圏内で推移を続けてきた物価を押し上げた大きな要因は、テレビ価格の上昇である。2010年基準のテレビ(薄型)価格を見ると、統計の存在する2006年1月以降2012年1月まで73ヶ月連続で下落していた。2012年2月以降、テレビ価格が前年比で一転して上昇に転じたのは、基本銘柄が新たに変更された影響がある。2012年1月には前年比▲36.1%であったテレビ価格が、2月には同+0.5%に大きく上昇している。

そもそも、テレビ価格が下落を続けた背景、そして消費者物価に与えるインパクトの大きさの背景には何があるのか。内閣府は消費者物価の日米比較を個別品目に着目して行っており、この疑問にも触れている。まず、2010年基準消費者物価のウエイトは、2010年の家計調査における消費支出の大きさで決まる。2010年は、家電エコポイント制度により、家計がテレビに支出した額が増加した。この影響で、テレビのウエイトは2005年基準の0.37%から0.97%に上昇し、テレビ価格が消費者物価指数に与える影響が大きくなった。ウエイトで見ると、テレビのウエイトは米国の5倍にもなる(他方、米国では自動車のウエイトが日本の3倍と高い)。

そして、価格下落の背景であるが、調査対象サンプル選定の違いによるところが大きい。日本の場合、「液晶テレビ、32V型、特殊機能付きは除く・・・」と対象基本銘柄および商標・型式番号が指定されている。とりわけ、32V型、特殊機能なしのテレビ価格の下落スピードは、他のテレビ銘柄と比較して大きいという。他方、米国の調査サンプルは、「4年のローテーションで行われる確率比例抽出という手法によって、販売シェアに応じて確率的に定められる」そうだ。つまり、品質の異なるテレビが同時に対象サンプルとなるのだ。これにより、基本対象銘柄が詳細に規定され、固定される日本のケースと異なり、市場での販売動向によって調査サンプルが変化する米国のテレビ価格の下落は緩やかである(図表)。これに対し内閣府は、「品質を一定としたときの価格変動を測定するというCPIの目的に照らせば、日本の調査銘柄が『32V型、特殊機能付きは除く』に固定されていること自体は問題ではなく」、むしろ米国のサンプル手法に、調査サンプルの変化に伴う品質調整が十分にされていない可能性があると指摘している。(引用部分および参考資料:内閣府『マンスリー・トピックス No.007』「消費者物価の日米比較~個別品目に着目して~」、平成24年5月18日)

この内閣府の見方には、統計手法に対する考え方の違いから賛否両論あろう。ただし今回注目したいのは、これまで品質を一定としていることに統計上の「優位性」があるというのであれば、なぜ2月に実施された銘柄変更において、品質が調整されなかったのか、という点である。今回の銘柄変更によるテレビ価格の大幅な上昇を見る限り、品質調整が適切に行われるべきであったと考える。日本銀行が「中長期的な物価安定の目途」として前年比+1%を提示して以降、物価の見通しに対する注目は高まった。その裏で、このテレビ価格の上昇は一種のかく乱要因となっているように感じる。

日本と米国の消費者物価指数におけるテレビ価格推移
(出所)総務省、米国労働統計局"Consumer Price Index, All Urban Consumers"より大和総研作成

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲