中国の技術力向上と知的財産権保護の行方

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2012年05月23日

技術力の低さは、中国の産業の最大の弱点である。永らく労働集約型産業の競争力を維持してきた中国は、技術の自主開発能力が低く、第10次5ヵ年計画、第11次5ヵ年計画中の10年間(2001年~2010年)でもR&D支出のGDP比は一貫して目標を下回った。2011年にスタートした第12次5ヵ年計画では、主要目標は1年毎に目標設定が行われるようになっており、2011年のR&D支出のGDP比は目標の1.85%に対して、実績は1.83%と僅かに届かなかった。目標は超過達成するのが当然視される中国で、11年連続で目標に達しなかったという項目は他にない。

中国企業の認識として、「技術は開発するものではなく、技術先進国・企業から(無償で)移転されるもの」との考えがある面は否めない。日本を含めた技術先進国企業が中国市場に参入する場合、技術移転を要求されることがある。中国政府が戦略産業と位置付ける分野では技術移転要求や国産化要求が特に強い。外国企業が安心して中国ビジネスを強化し、相互利益を一段と拡大し、さらにそれに持続性を持たせるためにも、知的財産権保護の浸透・強化や、正当な対価を伴う技術移転は不可欠である。

こうしたなか、5月13日に日本・中国・韓国の3ヵ国首相は、「日中韓投資協定」に署名した。同協定では、知的財産保護を強化し、投資受入国が企業進出の条件として技術移転を求めることを禁止する規定が設けられるなど、投資環境改善への期待を高める内容となった。

最後に、中国企業の技術力向上や知的財産権保護に対する認識が、内側から変化していく可能性を指摘したい。昨年秋以降、各産業の第12次5ヵ年計画が順次発表されている。そのR&D支出に関する記述を俯瞰すると、(1)産業構造高度化の牽引役が期待される戦略的新興産業(省エネ・環境保護、新世代情報技術、バイオ、ハイエンド装置製造、新エネルギー、新素材、新エネルギー車)は、売上に対して5%以上のR&D支出が求められている、(2)この他の多くの産業では、国家統計局の工業分野の統計集計対象である年間売上2,000万元以上の企業、さらには重点中核企業に、高めの目標設定を行っている、ことが特徴として挙げられる。戦略的新興産業と中国の大企業を中心とした自前技術の蓄積を意図したものであり、これが軌道に乗れば、知的財産権を巡る対立の構図が大きく変化する可能性があろう。具体的には、知的財産権の問題は、従来であれば「技術先進国VS中国」の対立軸で語られることが多かったが、今後は「技術先進国企業+R&D投資を増やす中国の技術先進企業と大型企業VS中国のその他企業」の関係がより重要になり、結果として、知的財産権保護への取り組みが強化される可能性があるとみている。こうした動きは、中国全体の技術レベル全体の底上げの観点からも注目されよう。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登