公民連携が推進されるためにリスク分担の検討を

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2012年05月15日

  • 大村 岳雄
週末に何気なく利用している公共の図書館やスポーツ施設も、かつてと比べると開館時間や曜日、そのサービス内容はかなり良くなっている。この背景には、2003年に改正された地方自治法で導入された指定管理者制度がある。同制度は、「住民サービスの向上」と「経費の削減」を目的に公共施設の管理を民間企業やNPO法人等を含めた法人・団体に委ねる制度(※1)である。公共部門の提供するサービスが民間に移転されるようになったのはこれが初めてではない。

歴史を振り返れば、戦後、国によりさまざまな公共インフラが整備され、経済成長が実現されてきた。しかし、国の財源も有限であることから、鉄道(国鉄からJRへ)や通信(電電公社からNTTへ)などの分野では民営化が進められた。民営化により経営の自由度が増し、より機動的な意思決定が出来るようになったことで、サービスが向上し利用者の利便性が増大したことは衆目の知るところである。その後、21世紀に入り経済成長の鈍化、厳しい財政状況、少子高齢化の進展といった状況変化から、「国から地方へ」「官から民へ」という流れになり、公共サービスのあり方やその運営主体が公共部門であり続ける必要があるのか再び問われるようになってきた。それを回避する方法として民営化だけでなく、前述の指定管理者制度やPFI(Private Finance Initiative)(※2)、地方独立行政法人化などが新たな手法として登場してきた。これらの動きは広く捉えれば、公民連携と呼ばれている。

昨年(2011年)の具体的な動きを見ると、例えば、国レベルでは国交省により空港経営改革の一つとして国管理空港(27空港)に対し運営権の民間委譲が方針として示されているし、地方自治体レベルでは大阪市・橋下市長により市営地下鉄・バス事業の見直しの一つとして市営地下鉄の民営化が検討されている。
ではこのような公民連携で、公共部門と民間部門の双方にどのような動機と役割があるのだろうか。下記のように整理できよう。

表:公民連携における各部門の動機と役割表:公民連携における各部門の動機と役割

しかし、ここで留意すべき点は、公共サービスの担い手を公共部門から民間部門に移管したからといって効率的な運営が約束されている訳ではない。効率化を実現するためには、公共サービス事業に伴うリスクをどう公民で分担するかを十分考慮する必要があるからだ。公共部門にリスク負担が多ければ、効率性の追求が犠牲になる可能性がある。民間部門にリスク負担が多くなると、必要以上に予備費を計上することとなり収益性が損なわれる可能性が出てくる。
今後、公民連携を推進する上でも、公民の間のリスク分担には十分な検討が必要であろう。

(※1) 公共施設管理のうち、地方公共団体の長のみが行うことができる権限(使用料の強制徴収、不服申し立てに対する決定、行政財産の目的外使用許可等)を除いた部分の管理を、民間企業やNPO等を含めた法人・団体に委ねる制度
(※2)公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法
(※3)支払い(Money)に対して最も価値の高いサービス(Value)を供給するという考え方

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