中国:2012年1月の金融統計の光と影

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2012年02月15日

2012年1月の貸出増加額は前年同月より2,882億元少ない7,381億元となった。1月の貸出急増を回避し、年間を通じた貸出の平準化を促進するとの観点からは、肯定的な評価が可能であろう。

そもそも中国では、2003年12月に中国銀行、中国建設銀行への外貨準備からの資本注入が行われ、その後、大手銀行が株式市場への上場を果たすなど、2004年以降、銀行経営改革が大きく進展。銀行は利益重視姿勢を強め、「利息収入の最大化(早く貸して、早く利息収入を得る)」を目的に、1月と最初の四半期末である3月の貸出額が急増するようになった。借り手にしてもより多くの借り入れが可能なこの時期に、年間の資金を確保しておきたいとのインセンティブが働いていた。

しかし、こうした貸出姿勢は、[1] 特に10月~12月の貸出が抑制され、柔軟な貸出政策が難しくなる、[2]貸し倒れリスクが相対的に小さい大型国有企業が優先され、中小企業への貸出が抑制される、という弊害をもたらした。このため、2008年以降は、年間を通じた貸出額の平準化が強く意識されるようなっている(ただし、2008年11月に発表された4兆元の景気対策に伴う積極的な金融緩和により、2009年前半にかけて貸出は急増)。

年間貸出増加額に対する月別のウエイトをみると、2010年と2011年は1月の季節変動特性を除き、この平準化がほぼ成功している。現地報道では、2012年の年間貸出増加額目標は、2011年の実績7.5兆元を若干上回る8兆元程度とされる。1月の貸出増加額7,381億元はその9.2%を占める計算となり、平準化はさらに進展している可能性が高い。

一方で、2012年1月の預金が8,000億元もの純減となったことは、リスク要因として認識すべきである。M2増加率は、12.4%と昨年12月の13.6%増から伸びが鈍化した。

特に、企業預金は2.37兆元もの減少を記録。中国人民銀行は、「旧正月の影響」(例えば、ボーナス支払いによる企業預金から個人預金へのシフト)を指摘するが、旧正月の時期に預金全体が減少するのは、むしろ稀であり、それが主因ではないことは明らかであろう。

預金減少の要因が、貸出平準化に伴う企業預金の取り崩しであれば、2月以降は正常化するはずである。懸念されるのは、昨年来懸案事項となっている、銀行システム外の民間金融への資金シフトが一段と進んだ可能性である。貸出は預金を原資に行われるので、預金減少が続けば、銀行の貸出余力も低下する。それを防ぐには、(1)物価低下による定期預金の魅力向上(2010年2月以降、実質預金金利はマイナスが続く)と、違法な民間金融の取り締まり強化(一部地域では、最高金利を貸出基準金利の4倍以内に抑制)、(2)2011年10月以降の中小企業・零細企業向けの貸出増加策の徹底と強化、などが実施される必要がある。景気の底打ちと回復の行方を占う上でも、2月以降の金融統計に注目したい。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登