英国事情:「自分の身は自分で守らなければならない」

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2012年01月11日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
過ぎたばかりの2011年は、数々の出来事とともに、歴史的に重要な一年として刻まれることになるだろう。そこで、ごく私的な観点からで恐縮ではあるが、「2011年の英国で印象に残った出来事」を二つ紹介したい。

一つ目は、30年ぶりに行われた英国王室のご結婚である(4月29日)。

私自身は当日の混雑を恐れてロンドンから離れていたのだが、近郊の都市にいてもその盛り上がりは十二分に伝わってきた。何よりも印象的だったのが、ウィリアム王子殿下とキャサリン・ミドルトン嬢を見守る群衆(近隣の欧州諸国のみならず、世界中から集まっていた)の幸せそうな顔である。そこには、2010年から猛威を振るう「欧州危機」の姿は見当たらなかった。これだけ多くの人々を笑顔にする力がある国というのは、世界中を見回してもおそらく英国だけではないだろうか。私はそこに、理屈ではない、英国の国(もしくはコンテンツ)としての底力を見たという気がしている。

二つ目は、欧州危機まっただ中のEU27カ国首脳会合(12月8日・9日)にて、英国がEU加盟国の中で唯一、財政規律強化のためのEU条約改正案に同意しなかったことである。

「EU金融規制の実施に対する自国の裁量維持のため」という不同意の理由は、誤解を恐れずに言い換えれば、「自分の身は自分で守らなければならない」ということであろう。キャメロン首相が取ったこの行動は国論を二分した。英国が主権意識の強い国であるということは、何ら新しい情報ではない。そのことは、統一通貨「ユーロ」を導入していないという事実からのみならず、市井レベルでも感じ取ることができる。というのは、私の知る(生粋の)英国人は、例えばフランスやドイツといった大陸諸国を「ヨーロッパ」と呼ぶためである。この呼び方には、あたかも、英国はヨーロッパの一部ではないかのような響きがある。しかし、こういった市井レベルの感覚を、EU27カ国首脳会合という国際舞台にまで持ち込んだかのような今回の政府の行動は、私のような第三者にとってのみならず、当の英国人の一部にとっても大きな驚きであったようである。

2012年は、ロンドン五輪が開催される年である。英国政府としては、足踏み状態の低成長が見込まれる経済にとってのささやかなドライバーとなることを期待しているかもしれない。

これをお読みの方々の中には、日本選手団を応援すべく、今夏ロンドンに行かれる予定のある方もいらっしゃるだろう。その際、貴重品の盗難にはぜひ気をつけていただきたい。ロンドンは、世界一の監視社会と言われており、CCTVカメラがいたるところに設置されているにもかかわらず、警察は暴力を伴わない軽犯罪については厳しく取り締まっていないという印象を受ける。CCTVにしっかりと犯罪の様子が写っていても犯人が捕まらないことから、観光客や日本人をターゲットにした窃盗犯罪は毎日のように繰り返されているという。

EU条約改正案に同意しなかった英国ではないが、「自分の身は自分で守らなければならない」ということであろう。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光