バランスのとれた再生可能エネルギー政策を

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2011年12月06日

  • 物江 陽子
原発に代わるエネルギーのひとつとして、再生可能エネルギーへの期待が高まっている。NHKが10月に実施した意識調査では「今後発電に使うエネルギー源は、何を最も増やすべき」か、との設問に66%が「太陽光や風力などの再生可能な自然エネルギー」と答えている(※1)

では、太陽光や風力にどの程度電力供給の可能性があるのか。前回のコラムでは、風力発電にはハードルはありつつ、大きなポテンシャルがあることを紹介したが、日本のこれまでの再生可能エネルギー政策では、風力発電より太陽光発電に重点が置かれてきた。風力発電に関する政府目標はないが、太陽光発電に関しては「2020年に20倍」(2005年比、28GW)という明確な数値目標がある(※2)。非常にアグレッシブな目標だが、この目標が達成できたとしても、総発電量に占める太陽光発電の割合は3%程度にすぎない(※3)。なお、太陽光発電の導入量が最多のドイツでも、総発電量に占める割合は3.5% (※4)。太陽光発電が電力供給に果たす役割は極めて限定的である。

また、太陽光発電への政策支援を拡充しても、国内における産業育成効果も限定的となる可能性がある。現在太陽電池市場は、中国企業の生産拡大と欧州の需要低迷により完全な供給過剰状態にある。システム価格の急落により、先進国の太陽電池製造企業は軒並み厳しい経営環境に置かれている。中国企業との厳しいコスト競争の結果、ドイツの太陽電池市場では2010年に輸入比率が8割に達したとみられ、製造拠点の海外移転も加速している。日本の太陽電池の輸入比率は現在2割程度だが(※5)、今後はドイツ同様拡大していくだろう。

なお、世界的には水力発電を除く新再生可能エネルギーの主力は、バイオマスと風力である。EIAの統計によれば、2008年に世界の新再生可能エネルギー発電量の47%をバイオマス・廃棄物が、39%を風力発電が占め、太陽光の2%を大きく上回った(※6)。日本では風力発電のみでなく、バイオマスについても大きな可能性がある。前述のドイツは、実はバイオマス大国でもある。林業・木材産業が推定100万人の雇用を創出しており(※7)、林業廃棄物を利用したバイオマスによる発電量は太陽光のそれを大きく上回っている(※8)。ところが、実は日本にはこのドイツを超える森林蓄積があると推定されている(※9)。ドイツのように林業の近代化が進んでおらず、生産性改善の余地も大きいため、政策支援の意義は大きいと考えられる。太陽光発電のみでなく、風力やバイオマスについても電力供給に果たす役割、産業育成効果を検証し、明確な政府目標を策定すべきではないか。

再生可能エネルギーの導入拡大は重要な課題だが、どの再生可能エネルギーにどのような政策支援が有用なのか、冷静な目で費用対効果を検証し、太陽光発電に偏ることなく、バランスのとれた政策支援が実行されることを期待したい。

(※1)NHK放送文化研究所「原発とエネルギーに関する意識調査(2011年10月)単純集計表」
(※2)「経済危機対策」(2009年4月閣議決定)
(※3)総発電量が2009年度と同等と仮定した場合(資源エネルギー庁(2011)「平成21年度(2009年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」)。設備利用率を12%として試算
(※4)2011年上半期。BDEW(German Association of Energy and Water Industries) “ BDEW veroffentlicht Halbjahreszahlen fur Erneuerbare Energien 2011“
(※5)太陽光発電協会(2011)「平成23年度第2四半期太陽電池セル・モジュール出荷統計について」
(※6)EIA, International Energy Statistics.
(※7)梶山恵司(2011)『日本林業はよみがえる』日本経済新聞出版社
(※8)2010年、バイオマスによる発電量は太陽光発電の2.5倍であった。BMU(2011)Renewable Energy Sources in Figures.
(※9)梶山(2011)前掲書

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