報道されないFATCA

2011年7月20日

FATCA(ファトカ)とは、米国で2013年から施行されることになっている外国口座税務コンプライアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act)の呼称である。

その内容は、わが国の金融機関を含む米国外の金融機関(Foreign Financial Institution、以下FFI)が、米国内国歳入庁(以下、IRS。わが国の国税庁に相当)と米国人・米国法人が保有する口座情報の報告等に関する契約(FFI契約)を締結し、米国人口座の有無の確認を行い、米国人口座に関する一定の情報をIRSに年1回報告することを求めるものである。

FFI契約を締結しない場合、FFIに支払われる米国源泉の利子・配当等のほか利子・配当を生み出す米国資産の売却・処分に伴うグロスの金額などに対して新たに30%の源泉税が課されることになる。

この法律は海外の金融機関(※1)にコンプライアンスを徹底させることにより、米国人の富裕層に適切な申告を行わせ、公平な税負担を負わせることにより、間接的に歳入の増加を意図するものであり、米国人の富裕層の脱税を防止するところにその主眼がある。

しかし、FFIにとっては、上記のとおり米国人口座のデューデリジェンスを行うことになるなどあまりにも重い負担が課されており、膨大なコンプライアンスコストも強いられる。わが国金融機関はその対応に苦慮しているところであるが、マスコミ等では、目立った報道がなされていない。

いまだFATCAについては不明確な点が多く、今後制定される規則により具体的な内容が明らかとなる。

それにもかかわらず、金融機関は施行に向けての準備を始めなければならない。金融機関にとってみればシステム開発等の準備に到底間に合わない内容となっているので延期を求める声も大きい。

米国にとっては富裕層の脱税を防止するためにFATCAが必要なのであろうが、さすがに現時点の法律およびガイダンスの内容がそのまま実施されるとは思えない。

IRSは世界各国からガイダンスに対するコメントを求めており、そのコメントが今後制定される規則にどの程度反映されるのかが今後の焦点となろう。

現状の法律およびガイダンスが実現された場合には、金融機関によっては、米国投資をやめたり米国人口座の閉鎖、新規口座の申し込みを停止したりといった選択を強いられるかもしれない。

米国は、Qualified Intermediary(QI=適格仲介人)制度が導入されたときと同様に、外国金融機関等に実施する際の問題点を検討・洗い出させた上で、対応していくという手法をとっている。

したがって、わが国の政府がIRSに働きかけを行わないのであれば、わが国の金融機関は、立場が不利にならないよう業界団体を通じて、あるいは個別に直接IRSに働きかけざるを得ない。だが、それでは、非常にコストがかかる上に、IRSとの交渉の結果が一般に共有されない可能性もある。

特に交渉が必要となるのは、IRSとの間で契約を締結しているFFIが、米国口座に関する情報の開示を拒否する非協力的顧客やIRSとの間でFFI契約を締結しないFFIに対して支払う、米国源泉所得でないもの(例えば、銀行が自行の顧客に支払う預金利子など)であっても30%の源泉徴収の対象とされる場合がある点だ。

わが国金融機関にとっては当該源泉徴収を行う法的根拠はなく、米国の課税権を逸脱していないか疑問である。租税条約に抵触する可能性さえある。この点についても、政府(税務当局)による交渉・対応が望まれる。

翻って、わが国でもFATCAと同様の制度を導入することは可能なのであろうか。

最近では、2011年度税制改正大綱などで、国際課税について、国際的租税回避を防止してわが国の適切な課税権を確保する必要性が議論されている。

しかし、FATCAのような対応は、世界最大の資本市場を持つ米国だから可能なのであり、わが国が同様の制度を導入した場合、単にわが国への投資回避を招くだけの結果に終わる可能性もある。

政府は今後、FATCAと同様の制度がわが国で導入可能かどうか、また、わが国で導入した場合に米国は協力してくれるのかということも念頭に置いて、IRSと交渉してほしい。

(※1)銀行、信託銀行、証券会社等だけでなく、プライベートエクイティファンド、ヘッジファンド、持株会なども含まれる。

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